本研究は、細胞性粘菌のOTOKOGI (MID)遺伝子オーソログ Ddmid に注目し、それらの機能解析により細胞性粘菌の原始的な性のしくみを明らかにし、藻類の雌雄異体の同型配偶とは異なる視点で雌雄性成立の問題を考えることを目的としてきた。 本年度は最終年度であるため、これまでの研究結果を整理し、再現性の確認が必要な結果を中心に再実験を実施し、論文作成に必要なデータの確認と整備を行った。これまでに得られた、(1)DdmidBの過剰発現がホモタリックなマクロシスト形成を引き起こすこと、(2)DdmidBの遺伝子破壊株は、ホモ/ヘテロタリックどちらにおいてもマクロシスト形成を阻害しないこと、(3)唯一のホモタリックな野生株であるAC4株におけるDdmidBは、タイプ1~3とは異なり、塩基の欠失が3‘側で数カ所にわたり顕著な “変異型”であること、が確認された。 DdmidBのホモタリック型接合に関与する遺伝子を網羅的に探索するため、高速シークエンサー解析のためのサンプル調製を計画していたが、DdmidB過剰発現株でのマクロシスト形成効率が低く、分析に値するサンプル量を確保するのが難しいことが判明したため、過剰発現ベクターの改変やマクロシスト形成条件の検討が必要であることが明らかになった。また、予算が限られているため多くのサンプルを高速シークエンサーにかけることができないので、可能な数(2~4)のサンプルを設定するための基礎的なマーカー発現解析が必要である。 ホモタリックな有性生殖を行うAC4株の変異型DdmidB遺伝子の過剰発現と遺伝子破壊を試みたが、野生から分離された株であるため、遺伝子操作が確立されている株と比べて形質転換が起きにくく、現在のところ抗生物質での選抜過程でうまく選別できていない。DdmidBがAC4株におけるホモタリック型接合に関与するのかどうかは今後の解析が待たれる。
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