研究課題
本研究の目的は、爬虫類を題材として、ミトコンドリアゲノム(mtDNA)における遺伝子発現様式の多様性と進化を、従来にない新しいアプローチで探究することである。爬虫綱有鱗目の主要系統を代表する5種からmtDNA の全塩基配列を決定した。一方、同一個体からmRNAを調製し、Roche GS FLX Titanium型次世代シーケンサーまたはIllumina HiSeq型次世代シーケンサーを用いて、トランスクリプトーム解析を行った。得られた断片readのうち、mtDNAに由来するものをBlast解析で選別し、その塩基配列をmtDNA全塩基配列と照合した。その結果、5種の有鱗類ミトコンドリアにおいて、mtDNAコードの13タンパク質遺伝子と2 rRNA遺伝子にはRNA編集や翻訳フレームシフトが見いだされなかった。3’末端にpolyAを含むreadをmtDNA全塩基配列上にマップしたところ、先行研究でヒトなどの哺乳類で報告されているpolyA付加サイトと概ね調和する結果が得られた。しかし、例えばND5遺伝子mRNAのpolyA付加サイトがND5遺伝子の直下に存在するかどうかについて、種ごとに異なる結果が得られた。現在このような違いが得られた原因に付いてさらに解析を進めている。polyA付加によって終止コドンが出現するmRNAについて、polyA含有readの3’末端構造を調べたところ、正しく終止コドンが出現しないような配列異常が高頻度で生じていることが示された。現在、この結果が次世代シーケンス解析に伴う何らかのエラーである可能性を含めて詳しく検証を進めているところである。このように研究目的をハイスループットに実現するための新しい手法の開発は着実に進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、爬虫類を題材として、ミトコンドリアゲノム(mtDNA)における遺伝子発現様式の多様性と進化を、従来にない新しいアプローチで探究することである。従来の手法を適用するのではなく、全く新しい手法を開発して行う研究である。任意の脊椎動物からRNA編集や翻訳フレームシフトのサイトを網羅的に探索する手法はこれまで存在していない。今までのところRNA編集や翻訳フレームシフトのサイトは新規に発見されていないものの、それを短期間で探索できる手法を開発できたのは、本研究の大きな成果の一つである。本研究はまだ研究途上であり結論は確定していないものの、mRNAへのpolyA付加の位置やpolyA付加の正確性について新しい結果が次々に得られている。これらの成果は、やはり次世代シーケンサーを用いたハイスループットな手法なしでは容易に得られなかったものである。本研究は、脊椎動物mtDNAの遺伝子発現様式とその進化について、新しい手法で解明するモデル研究として、意義深いと評価できる。
所属研究科に新しく導入されたイルミナ社MiSeq型次世代シーケンサー(250bpのペアエンド解析が可能)を本研究に積極的に活用していきたい。これまでの予察的な研究によって、エラー率の比較的低いSequence-by-Synthesis型を採用したイルミナ社のマシンが本研究の目的に現状で最も適合していると判断される。新しい種を1-2種選定し、昨年度と同様のトランスクリプトーム解析を行い、そのデータを利用してRNA編集等の探索、polyA付加の位置や正確性の検証を行うつもりである。またイルミナ社のマシンによる解析で比較的高いpolyA付加エラー率が示されたミトコンドリア遺伝子に関して、3' RACE解析を実施することで、より詳しく裏付けるデータを取得したい。数種のデータを比較することで、polyA付加エラー率に影響を与える要因を洞察する研究を行うつもりである。一方、13コのタンパク質遺伝子に関する定常状態におけるmRNA量比を、read数の比較によって推定する解析を行いたい。その結果をさらに定量PCRによって裏付ける実験も行う必要があろう。それらの結果を踏まえて、定常状態におけるmRNA量比がどのような要因によって決定されているのか、遺伝子の配置変動(制御領域の重複も含む)がmRNA量比にどのような影響を及ぼすのかについて考察を行いたい。
次年度の研究費の使用費目としては、50万円を超える備品類や謝金への支出は予定していない。トカゲ・ヘビ類など実験動物の購入費用と、次世代シーケンス関連の試薬・キット類など実験用消耗品の購入に約150万円、研究代表者や研究協力者の旅費として日本進化学会などへの参加・発表経費に約30万円、民間企業へのインフォマティクス解析の委託等に約30万円を予定している。
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