本研究は、爬虫類を題材として、ミトコンドリアゲノム(mtDNA)における遺伝子発現様式の多様性と進化を従来にない新しいアプローチで探究することを目指している。 前年度に引き続き、5種の有鱗類の肝臓からRNAを抽出し、イルミナMiSeq次世代シーケンサーを用いてRNA-Seq解析を行った。100-200bpのcDNA断片readが1種あたり2000-4000万取得された。当該種のmtDNA塩基配列を用いたBLAST解析により、この中に4-11%のmtDNA由来readが含まれることを確認した。それらを各タンパク質遺伝子ごとに区分し、遺伝子の鎖長を考慮したうえでのread数の相対比を求めたところ、シトクロムオキシダーゼ(CO)のサブユニット遺伝子(とりわけCOI遺伝子)及びシトクロームb遺伝子が比較的高い値を示したのに対し、NADHデヒドロゲナーゼのサブユニット遺伝子は概して低い値を示した。これらの遺伝子はmtDNA上の様々な位置にコードされているにもかかわらず、同一のタンパク質複合体を構成するサブユニット遺伝子同士が、何らかのメカニズムにより協調的に発現制御されていることが示唆された。 一方、前年度の結果を踏まえ、polyA付加によって終止コドンが出現するmRNAについて、polyA付加の正確性に関する検証実験を行った。ニホンカナヘビのCOII mRNAにpolyAが付加する際に、直前のUが欠落したと思われるreadが比較的高い比率(2%)で検出されていた問題について、3’RACEを用いた検証実験を行ったところ、やはり同様の比率で欠落が生じていることが示唆された。従って、RNA-Seqでの観察結果は細胞内の現象を基本的に反映しているものと判断された。
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