研究課題/領域番号 |
24657164
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀田 耕司 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (80407147)
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キーワード | dwarf / size / scaling / 発生学的拘束 / 尾芽伸長 / ファイロタイプ / 尾芽胚 / 脊索動物 |
研究概要 |
ホヤの未受精卵をガラスニードルで一部切除することにより個体サイズが著しく小さい尾芽胚である矮小化尾芽胚を人工的に作成することができる。本研究ではまず、カタユウレイボヤを用いて卵体積が野生型卵の60%以下となると矮小化尾芽胚が作り出せないこと、本矮小化尾芽胚は少なくとも幼生期を経て変態し、野生型と変わらない幼若体へと成長することができることを確かめた。次に、矮小化尾芽胚の形態の、野生型尾芽胚との違いを1細胞レベルで調べるために、共焦点レーザー顕微鏡画像をもとに先行研究(Nakamura et al., 2012 Developmental Biology)と同様の方法を用いて3次元モデルを作製した。そして細胞数、細胞体積などの情報を正常胚と比較し網羅的に解析した。結果、個体の形態が維持されるためには個体の全体積における各組織の体積の割合が一定になるという条件があることが示唆された。また細胞数が減り体積が変化しない組織と細胞数が変化せず細胞体積が減る組織の2つのグループおよびいずれにも属さない組織があることがわかった。以上までの成果をまとめ、 Comparative Anatomy of Ascidian Miniature Tailbud. として7th Tunicate Meeting (2013年7月22-25日 ナポリ大学、ナポリ、イタリア)において発表した。3次元モデルを作製を自動化するための手法の開発も試み、ラマン顕微鏡によって無染色で複数の組織を可視化する手法を確立できた(Nakamura et al., 2013)。さらに、カタユウレイボヤと比較し巨大な幼生を形成するBotryllus種を使用するために、その発生オントロジーを確立した(Lucia et al., 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、Dwarf尾芽胚の3次元CG化により細胞レベルでの幾何情報を網羅的に抽出し、これらの違いを詳細に解析し、いつの時期に形態の破綻が生じるのか、タイムラプスイメージング、細胞分裂パターンの正常胚との違いなどさらに詳細な比較を行うことを目的として掲げた。その結果、卵体積が60%以下の胚は原腸陥入期以後に形態の破綻が生じることを複数個体同時タイムラプスイメージングによりつきとめることができた。また、ホヤの神経細胞数は全体として著しく減少するものの、Dwarf幼生も正常胚と同様に明から暗への光刺激に対して正常に反応するといった観察結果が得られた。神経細胞数を減少させつつ、どのように外界の刺激に対して正常な行動が保たれているのかが疑問であった。今回、脳胞における正常胚の細胞配置との比較解析から、ホヤ脳胞の行・列数の違いには変化がなく、後方神経管を形成する細胞数のみに違いがみられることが明らかになった。このように、個体のロバスト性を保つための戦略がみえてきつつあり、最終年度に続く興味深い結果が数多く得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
器官形成期の形が進化的にどのように維持されているのか、そのための細胞のコアとなるプロセスを割り出し”ファイロティピック段階とは何か、形を維持させ、ロバスト性を保つために必要な細胞ごとの要因とは何か”といった疑問に答えるために最終年度は卵サイズの異なる種との比較を行い、共通のメカニズムの割り出しを行う。そのために、さらに多くの異種個体形状のモデル化を行い、それぞれの発生過程における細胞系譜、細胞分裂回数がどのように変化したかを明らかにする。これまでのマニュアルアノテーションに加え、自動追跡法を取り入れる。こうして明らかにされた形態維持の共通性と違いをみることで進化的に維持されている器官形成期のロバスト性を維持する機構を明らかにする。
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