RNAの試験管内分子進化法によって様々なRNAを進化工学的に創成できる事実はRNAワールド仮説を強く支持している。しかし、この手 法では、RT-PCRやDNAランダムプールなどを必要とするので真に原始環境を再現したとは言えない。また、原始的に生成する化学素材 だけを用いて複製系を構築することには誰も成功していない。そこで本課題では本年度は原始地球環境で生成する素材だけで複製系を構築す るため、以下を検討した。 第1に、昨年度に検討したMauroらの手法によるヌクレオシド3’、5’-サイクリックモノリン酸を用いる反応を、ホルムアミドを添加する系で再試した。この結果は、Mauroらの方法でRNAが生成することを確認できなかった。 第2に、10鎖長の鋳型ヌクレオチドを用いて、グアニンと他の塩基からなる活性化ヌクレオチドからRNAが生成するかどうかを検討した。例えば、ccccctcccctの配列の鋳型を用いて、活性化したGMPおよびAMPを共存させ、Aを含むRNAが生成するかどうかを検討した。この結果、この反応では、RNAの生成率は極端に低下することを知った。 第3に、以前の検討で、ポリリジンを添加する系でわずかにRNA生成促進作用が見られた。そこで、これらの反応系に原始酵素モデルとして、ポリリジンを添加して効果を調べた。この結果、この系についてもRNA生成が大きく促進されることはなかった。 第4に、以上の結果から、活性化したモノヌクレオチドを用いても効率良くRNAは生成しないとおおむね断定できる。そこで、3鎖長以上の短鎖RNAをモノマーとして用いる方法を構築することを試みた。このため、P1ヌクレアーゼおよびS1ヌクレアーゼを用いてRNAポリマーから5’-リン酸基をもつ短鎖RNAを生成する手法を試みた。
|