研究課題/領域番号 |
24657170
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 一希 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (90533480)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 夜間観察 / 反芻行動 / テングザル / コロブス亜科 / 霊長類 / 睡眠 |
研究概要 |
昼行性野生動物が夜の時間をどう使い,どう睡眠をとるかを明らかにした研究は少ない.本研究は,夜間観察から,①テングザルで観察された世界初の霊長類反芻行動の適応的意義,②対捕食者戦略の2点を検討することを目的としている.当該年度では、特に目的①に関する研究に力を注いだ. テングザルで観察されている反芻行動の適応的意義を解明するために,テングザルと同所的に生息するアジア産霊長類6種に加え、アフリカ産7種の合計13種の霊長類種の糞の平均粒度を比較した.糞の粒度は,霊長類種がどれだけ食べものを効率よく消化しているのかを測る一つの指標といえる.つまり,その粒度が細かいほどよりよく消化吸収が行われていることを意味している.ただし,霊長類種の体格が大きくなるほど,歯の構造などから粒度は大きくなるため,各霊長類種の体重も考慮して粒度を補正する必要がある. 分析の結果,単胃と複胃の霊長類種では,複胃を持つ種で糞粒度が小さいことが明らかになった.また,単胃を持つ種では,体格が大きいほど粒度が大きくなるという飼育下で得られている結果と同様の結果を得ることができた.一方で,複胃を持つ種では,体重と粒度の関係性が不明瞭であった.興味深い点は,テングザルの糞の粒度が,単胃の霊長類はもちろん,複胃の霊長類種の中でも特に細かい点であった.これは,テングザルでのみ観察されている反芻行動が,食物の消化に効率的に働いている適応的な行動であることを強く示唆する結果だといえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように,糞の粒度分析から,テングザルで観察されている反芻行動の適応的意義をサポートする結果は得られている.しかし,本研究の要である夜間によるテングザルの直接観察には,現状では失敗が続いている.これは単純に,夜間撮影用の機材に問題があるためである.夜間撮影用ビデオカメラは,犯罪目的で利用されることもあるために,特に赤外線感知システムに規制が設けられている場合が多い.現在,撮影機器関連のさらなる情報を収集するとともに,実際に企業の技術者と改善作を模索中である.また,大量の赤外線を照射できる機材の購入も検討している.単なる技術的な問題による遅延であるため,一度この問題が解決されたならば,本研究目的達成への研究速度は飛躍的に伸びると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べたように,研究を遂行する上で最も大きな障害となっているのは,夜間撮影用の機材が上手く機能しないことである.今後は,なるべく早い段階で夜間撮影用機材の開発を完了し,野生下でのテングザルの夜間行動観察を重点的に実施する.また,野生下での撮影を遂行するほどまでに優れた機材の開発ができなかった場合には,飼育下のテングザルの夜間行動の観察も検討したい.1960年代の古い文献には,飼育下のテングザルでも反芻類似行動が観察された旨が記されており,現在テングザルの飼育・繁殖に成功しているシンガポールやマレーシア・サバ州の動物園において,飼育下テングザルの夜間観察を行う可能性もある. 野生下、飼育下どちらの観察であっても,反芻行動の頻度と糞の粒度を比較するために,糞サンプルの収集も継続して行っていく(反芻行動が頻繁な日ほど,糞の粒度は小さくなると考えられる).夜間の対捕食者戦略に関しても,夜間撮影用の機器が必要であるが,それが準備できない場合には,やはり飼育下のテングザルも視野に入れて実験を遂行する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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