本年度に得られた成果は以下の通りである. 1.雑種致死克服機構の解明につながる新しい知見を得ることを試みた.致死性を誘導したタバコ属種間雑種(Nicotiana suaveolens x N. tabacum)の培養細胞について,1)TEM観察によりマクロオートファジーの特徴であるオートファゴソームの形成,2)マクロオートファジー関連遺伝子(ATGs)や選択的オートファジーに関わる遺伝子(Joka2)の発現量の増加,3)不溶性タンパク質(選択的オートファジーによる分解の標的物質)の蓄積量の増加を確認した.以上から,マクロオートファジーは致死性に対して促進的に働いている一方で,選択的オートファジーが致死性に対し抑制的に働いていることが示唆された.これらの結果は,DNAメチル化による致死性の克服に関わる雑種致死原因遺伝子を同定する際の基礎的な知見となることが期待される. 2.雑種致死の克服にDNAメチル化が関与することを明らかにすることを試みた.N. suaveolens x N. tabacumの培養細胞の致死克服率は自然突然変異率に比べて高いことを確認した.メチル化感受性酵素MspJIを用いて評価した培養細胞の致死克服株におけるDNAメチル化レベルは,野生株に比べてわずかに高い傾向が示された.致死性が誘導される28℃下で培養した致死克服株では,DNAメチル化阻害剤であるZebularineの処理により細胞の生育が著しく阻害され,致死性の発現が回避される36℃下で培養した場合にはそのような生育阻害が見られないことを確認した.Zebularine処理による致死克服株の生育阻害は,DNAの脱メチル化により温度感受性の致死性が誘導された結果であると判断され,雑種培養細胞の致死克服現象にはDNAメチル化によるエピジェネティック変異が関与することが示唆された.
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