研究課題/領域番号 |
24658008
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
村井 耕二 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (70261097)
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キーワード | パンコムギ / 同祖遺伝子 / MADSボックス遺伝子 / エピジェネティック制御 |
研究概要 |
倍数性は植物に広くみられる現象である。パンコムギは、祖先2倍体種由来のA, B, Dと3つのゲノムを持つ異質6倍数体種である。A, B, Dそれぞれのゲノムが内包する遺伝子セットは基本的に同じであるため、6倍体のパンコムギは、3つの重複した遺伝子(同祖遺伝子)を持つことになる。パンコムギ品種Chinese Spring(CS)のクラスE MADSボックス遺伝子WLHS1の同祖遺伝子は、Aゲノム同祖遺伝子(WLHS1-A)は遺伝子構造が変化しており、Bゲノム同祖遺伝子(WLHS1-B)はエピジェネティックにサイレンシングされており、Dゲノム同祖遺伝子(WLHS1-D)のみが機能的である。本研究では、パンコムギの倍数性ゲノムにおける「同祖遺伝子計数機構」の存在を証明する。1年目の研究で、機能的なWLHS1-D遺伝子を含むあるいは含まない染色体欠失領域をもつ系統において、WLHS1-Dの欠失に伴うWLHS1-Bの明確な発現変動は観察されなかった。そこで、クラスD MADSボックス遺伝子(WSTK)およびクラスB MADSボックス遺伝子(WPI2)の同祖遺伝子の解析を行った。 6倍体および4倍体コムギにおけるWPI2遺伝子の同祖遺伝子の発現を調査したところ、いずれにおいてもBゲノム同祖遺伝子(WPI2-B)がサイレンシングされていることが判明した。4倍体のマカロニコムギと2倍体のタルホコムギから人為的に作出した合成6倍体でも、常にWPI2-Bがサイレンシングされていた。さらに、WPI2の座乗する3群染色体のナリテトラ系統の発現解析の結果、発現しているWPI2-AあるいはWPI2-Dが欠失した場合、サイレンシングされているWPI2-Bの発現が上昇することを見出した。このことは、エピジェネティック制御機構が関与することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、倍数性パンコムギにおける「同祖遺伝子計数機構」の存在を証明することを目的としている。「同祖遺伝子計数機構」の解明は、倍数性作物の新たな育種技術の確立につながると考えられる。平成25年度の研究では、雄ずい形成に関与するクラスB遺伝子(WPI2)の解析から、「同祖遺伝子計数機構」の存在を強く示唆する結果を得た。さらに、その機構にエピジェネティック制御が関与することが示唆された。研究の方向転換はあったが、目標に向かって進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度で、6倍体パンコムギのWPI2遺伝子の同祖遺伝子の発現を調査したところ、Bゲノム同祖遺伝子(WPI2-B)がサイレンシングされていることを見出した。しかも、このサイレンシングは、4倍体のマカロニコムギと2倍体のタルホコムギから人為的に作出した合成6倍体でも、常に起こる。さらに、WPI2の座乗する3群染色体のナリテトラ系統の発現解析の結果、発現しているWPI2-AあるいはWPI2-Dが欠失した場合、サイレンシングされているWPI2-Bの発現が上昇することを見出した。このことは、「同祖遺伝子計数機構」に、エピジェネティック制御機構が関与することを示唆する。そこで、「同祖遺伝子計数機構」の主要な一端を解明するため、サイレンシングされていたWPI2-Bの発現上昇が、エピジェネティック制御であることを検証する。 1) WPI2-Bのプロモーター領域のバイサルファイト・シークエンス解析を行い、WPI2-AあるいはWPI2-Dが欠失した場合のプロモーター領域のDNAのメチル化レベルの変化を調査する。 2) H3K4me3およびH3K27me3抗体を用いたChIP解析により、WPI2-AあるいはWPI2-Dが欠失した場合のWPI2-B遺伝子領域のヒストン修飾の変化を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
端数残金のため、次年度に繰り越した。 物品費として、リアルタイムPCR発現解析用の試薬、バイサルファイト・シークエンス用の試薬、ChIP用の試薬およびプラスチック器具類などを購入する。旅費は、学会での研究発表のために使用する。謝金は実験補助者のために使用する。
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