研究実績の概要 |
倍数性は植物に広くみられる現象である。パンコムギは、祖先2倍体種由来のA, B, Dと3つのゲノムを持つ異質6倍数体種である。A, B, Dそれぞれのゲノムが内包する遺伝子セットは基本的に同じであるため、6倍体のパンコムギは、3つの重複した遺伝子(同祖遺伝子)を持つことになる。パンコムギ品種Chinese Spring(CS)における花器官形成のクラスABCDE MADSボックス遺伝子の同祖遺伝子の発現パターンを調べたところ、3つの同祖遺伝子は同じように発現しているのではなく、それぞれの遺伝子によってどのゲノムの同祖遺伝子がサイレンシングされるか、発現パターンが異なることが明らかとなった。調査した全ての6倍体コムギでも、4倍体のマカロニコムギと2倍体のタルホコムギから人為的に作出した合成6倍体でも、同様の同祖遺伝子発現パターンとなることから、「ゲノム優先順位付き同祖遺伝子計数機構」が存在することが示唆された。そこで、この機構が存在することを証明するため、同祖遺伝子発現変異が明瞭なクラスB MADSボックス遺伝子(WPI2)の同祖遺伝子の解析を行った。前年度までの研究で、WPI2遺伝子はBゲノム同祖遺伝子(WPI2-B)がサイレンシングされており、WPI2の座乗する3群染色体のナリテトラ系統で発現しているWPI2-Dが欠失した場合(N3DT3B系統)、サイレンシングされているWPI2-Bの発現が上昇することを見出した。 <最終年度の成果> クロマチン免疫沈降解析(ChIP)の結果、WPI2-B遺伝子のプロモーター領域において、N3DT3B系統ではクロマチンの活性化指標となるH3K4me2レベルに対する抑制指標となるH3K9me2レベルの割合が正常なCSと比較して有意に低下することが明らかとなった。この結果は、WPI2-B発現がエピジェネティックに制御されていることを示している。
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