研究実績の概要 |
本研究は、タバコなどのナス科モデル植物で確立された葉緑体の形質転換技術をパンコムギ(Triticum aestivum)に適用し、葉緑体の遺伝子組換え体を安定的に得る方法を確立することを主な目的としている。またこの技術により、強光や乾燥などの非生物的ストレスに強いパンコムギを育成することも目的とする。そのため、葉緑体のグルタチオン-アスコルビン酸回路の酵素遺伝子(アスコルビン酸パーオキシダーゼの遺伝子apxなど)を葉緑体ゲノムに導入して強発現させ、非生物的ストレスを受けた際に発生する有害な活性酸素分子種(ROS)を効率的に消去させることを目指した。 これまで、apx遺伝子を持つコムギの葉緑体形質転換ベクターを作成し、遺伝子導入実験を行ってきたが、組換え体は得られていない。遺伝子導入のための外植片として葉を用いることができるタバコなどと比べ、コムギで組換え体を得るのが困難な要因として、外植片が開花後14日の未熟胚に限られることが挙げられる。未熟胚、およびこれを培養して得た黄白色のカルスでは、葉緑体が未発達であることが予想される。そこで今年度、転写因子のひとつGLK遺伝子に着目し、再分化可能な緑色カルスを生じる実験系統を作出することを試みた。 今年度、鳥取大学の乾燥地研究センターのグロースチャンバーを拝借し、アカダルマとFielder両品種から、それぞれ6,619個と2,653個の未熟胚を単離した。これらを2,4-D(2mg/L)を含むLS培地に置床して25℃で培養し、アカダルマから4,440個、Fielderから1,854個のカルスを得た。これらのカルスを遺伝子導入の外植片に用い、RT-PCRにより単離したコムギのGLK遺伝子とユビキチンプロモーターまたはアクチンプロモーターの下流につないだ導入ベクターを合計36プレート(プレートあたり約50個のカルスを置床)にボンバードした。現在、ビアラフォスを添加した培地で組換え体の選抜と再分化誘導を行っている。
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