研究課題/領域番号 |
24658014
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
杉山 修一 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (00154500)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 水稲栽培 / 有機農業 / 窒素肥料 |
研究概要 |
長期間の無施肥条件でも稲の収量が維持できるメカニズムを探る目的で、10年近く自然栽培(無肥料・無農薬)を行っている水田の窒素収支と稲の生育を調査した。調査圃場は、青森県内の二つの自然栽培水田である。そのうち1カ所は収量が10アールあたり420kgと高い収量を示し、他は200kg以下と低い収量を示す水田である。また、コントロールとして隣接する慣行栽培水田も併せて調査した。調査は田植え後、2週間間隔で行い、イネが吸収した窒素、土壌中の可溶性窒素、微生物窒素を測定した。また、窒素固定を調べるため、水稲根のアセチレン還元能力も調査した。 慣行栽培区に比べ自然栽培区の収量低下は穂数の減少が主要な原因であった。施肥窒素がないため、自然栽培区の稲は生育初期の窒素吸収量が不足し、分げつが抑えられるが、7月以降も分げつはゆっくりと増加した。土壌の可溶性窒素量は7月まで施肥区では高かったが、8月の出穂期以降は慣行栽培区と自然栽培区で土壌の窒素含有率に差がなかったため、登熟期の窒素は主に、土壌有機物の分解により放出される地力窒素に由来するものと考えられた。分げつ数は窒素含有率と有意な正の相関があり、自然栽培では施肥以外の窒素を生育初期にどのように供給するかが収量を維持するために重要である。 土壌微生物量は、一般に自然栽培区で高い傾向にあり、自然栽培区では有機物の分解能力が高いと考えられる。収量の低い自然栽培水田は、pHが4.5以下であった。pHと微生物量には正の有意な相関があり、この低いpHが土壌微生物の増殖を抑え、有機物分解を経由した地力窒素の放出を抑えた可能性がある。また、この自然栽培水田は、土壌の可溶性リン酸濃度が低く、低pHがリン酸の可溶化を抑えていた。今回の調査では、水稲根にアセチレン還元能力は見られず、窒素固定の効果は限定的と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素収支について、収量性の異なる長期無肥料栽培水田から基本的データがとれ、収量性の差をもたらす原因がほぼ解明できた。また、窒素固定を評価するアセチレン還元能測定の基本的準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年は、さらに灌漑水の流れを含めた植物と土壌の間の窒素循環の定量的なデータを詳細にとり、長期無肥料水田の窒素収支を明らかにする。また、昨年度調査した2水田以外に、他の自然栽培水田の調査を行い、今年度得られた結果の信頼性を確かめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、調査地が昨年度より増えるために、分析費用と分析のための謝金に多くの金額を使用する。また、他県にも調査地を増やすため、旅費の支出も増やす。
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