(1)東北地方において無肥料・無農薬の水稲栽培を行っている6農家の水田を対象に,長期無肥料条件でイネの収量が成立するプロセスを明らかにするために研究を行った。6農家の水田収量は10アール当たり180kgから480kgと大きく異なっており,この収量差が生じるメカニズムを土壌の栄養塩供給力の変化とそれを支える土壌微生物の分解活性から調査した。調査は,田植え前と田植え後の7月1日,7月15日,7月29日。収穫直前の9月21日の5回行った。 (2)収量の最も高い農家Kの水田は,30年間堆肥を含めて肥料を与えていないにもかかわらず,毎年480kgという慣行栽培と同程度の収量をあげている。この水田は,田植え前の土壌のカリウム濃度が最も高く,これは,前年の稲ワラ由来のカリと考えられ,前年秋から田植え前までの土壌微生物のワラ分解能力が高いことを示している。さらに,土壌の無機態窒素とマグネシウムは田植え前には他の水田と大きな差はなかったものの,7月には施肥を行っている慣行栽培水田より多くなり,収穫までその傾向は続いた。また,ポット試験で行ったワラ分解試験の結果,K水田は7月末までに他の水田に比べワラ分解率が10%低く,土壌微生物の有機物分解能力が他の水田に比べ高いことが実験で確かめられた。 (3)一方,低収量の水田には,有機物分解による土壌の栄養塩(特に窒素)供給能力の不足と土壌の可給態リン酸不足という二つの異なる原因があることが分かった。低リン酸土壌は慣行区の半分以下の値であり,初期成育の遅れから雑草繁茂を招き,穂数の低下から収量の大きな減少を引き起こした。また,分解能力の不足は低収量水田では投入されるワラが少ないこと,田植え後の温度上昇が低いことによる微生物活性の低下などが起因していると考えられた。
|