研究課題/領域番号 |
24658021
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大門 弘幸 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50236783)
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研究分担者 |
松村 篤 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30463269)
居原 秀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60254447)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 作物学 / 飼料作物 / 窒素固定 / 根系発育 / 地力増強 / フラボノイド / 根粒 / リン酸 |
研究概要 |
低リン条件下でクラスター根と称する特殊な形態の根を形成するルーピン(Lipinus属)における根粒菌の感染経路を明確にし,このような根系を形成する本属植物のリン吸収とリン溶解能をもつ共生根粒菌との関係を明らかにするために,3カ年の計画をスタートした.難溶性リンの溶解能を持つ根粒菌が,土着根粒菌に優先して感染し得る接種技術の開発も念頭において申請したが,この点は極めてチャレンジングであり,萌芽的研究であることを意識して研究に取り組んでいる.初年度は先ず,先行研究が比較的多い旧世界型の3種と報告が少ない新世界型の1種を供試して,リン欠乏条件下での根系発育を水耕実験で調査した. L. albus(白花ルーピン)とL. leteus(黄花ルーピン)では,クラスター根は再現性高く形成され,対照区と比べて総根長が長くなった.一方,L. angustifolius(青花ルーピン)とL. mutabilis(新世界型のパールルーピン)ではクラスター根の形成はみられなかった.青花ルーピンでは対照区と比べて太い根の割合が多く,総根長が短い傾向にあった.パールルーピンを10,50 μMのリンを含有する培養液を施用してポットで土耕栽培したところ,播種後26日と36日目における根の分泌物の主成分は,クエン酸であり,シュウ酸,マロン酸,コハク酸,フマル酸,リンゴ酸が検出された.根粒から単離した土壌細菌のIAA産生能を調査した結果,いくつかの系統で産生が確認された.青花ルーピンの根粒からはPseudomonas属菌が単離されたが,根粒構造構築における根粒菌とPseudomonas属菌の共感染の可能性については検討中である.パールルーピンの根粒菌をIllmer and Schinnerの培地に画線して培地の透明化によるカルシウム態リンの溶解能を検証したが,透明化は確認されなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究において,クラスター根形成の種間差異は報告されているが,リン欠乏条件が必ずしも十分に検討されておらず,その形成の種間差異については不明な点が多い.本課題における初年目の成果として,水耕栽培条件下でクラスター根形成の種間差異が認められ,特にこれまで研究例の少なかった新世界型のパールルーピンと旧世界型の3種との差異について,根系全体の発育の様相,根長や根の太さといった特性,根粒形成の様態,有機酸分泌などの点に関する種間差異を明らかにでき点は,次のステップに進む上に重要な到達点であると考えている.一方,申請前の予備実験の結果から,難溶性リンの溶解能を有する根粒菌がいくつかのRhizobium属あるいはBradyrhizobium属で確認されていたので,これまでに保存しているルーピン根粒菌からもカルシウム態あるいは鉄態リンの溶解活性の有無を調査したが,現時点ではその機能を有する菌株は得られていない.この点は,次年度以降,より多くの菌株の単離とそれらの溶解活性を調査していくべき点としてあげられる.なお,これまで報告の少なかったパールルーピンについて,継続的に実験を遂行するには,採種条件を明確にしておかなければならないが,南米高地が原産である本種を日本西南暖地である堺市で効率的に採種できる条件を明らかにできた点は大きい.次年度以降は,これらの知見を基盤にして,パールルーピンに特化して研究を進展させることで,本属植物の根粒形成とリン吸収について新たな知見が得られる可能性があると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,フラボノイドで前培養した根粒菌の接種が,ルーピンの窒素栄養とリン栄養を改善させる可能性について検討し,それを技術化することをアウトプットとして設定した.供試4種を実際に圃場で栽培すると,根系形成と根粒着生の様相に種間や系統間で顕著な多様性がみられたことから,特定の種や系統に着目して研究を進める必要性があり,上述のように次年度以降は先行研究の少ないパールルーピンに特化して,先行研究が比較的多い旧世界型の白花ルーピンや黄花ルーピンと比較しながら,そのリン獲得戦略についての知見を集積したいと考えている.根から滲出される有機酸について,初年度には定性分析にとどまったので,地上部の発育,根系の変化などと関連させながら,滲出量についても明らかにする予定である.さらに,リン溶解根粒菌の探索を継続し,研究代表者らが進めてきたフラボノイドにより前培養した根粒菌の接種が,根系構造や根粒着生に及ぼす影響についても研究を推進する.一方,初年度に一部の根粒からPseudomonas属菌が単離され,根粒菌との共感染の可能性が示唆された点は興味深く,この点についてもあわせて検討を進めたい.研究体制については,初年度と同様に2名の研究分担者とともに研究を遂行するが,本研究に関連するテーマを修士論文研究としている大学院生の協力も得ることとなっている.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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