研究課題/領域番号 |
24658021
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大門 弘幸 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50236783)
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研究分担者 |
松村 篤 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30463269)
居原 秀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60254447)
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キーワード | 作物生産科学 / 飼料作物 / 窒素固定 / 根系発育 / 地力増強 / フラボノイド / 根粒 / リン酸 |
研究概要 |
低リン条件下でクラスター根を形成するルーピン(Lipinus属)における根粒菌の感染経路を明確にし,このような根系を形成する本属植物のリン吸収とリン溶解能をもつ共生根粒菌との関係を明らかにするために,3カ年の研究を遂行している.これまで,リン欠乏条件下での根系発育を水耕栽培で調査し,L. albusとL. leteusでは,クラスター根は再現性高く形成され,L. angustifoliusでは頻度が低く,L. mutabilisではクラスター根の形成は確認できないことを示した.本年度は,これまでに先行研究がほとんどなかったL. mutabilisに焦点を絞り,土耕栽培を用いて,根系発育と根からの有機酸の滲出について検討した.表面殺菌したL. mutabilisLP 176系統の種子を赤玉土とバーミキュライトの混合培土を充填したポットに播種し,10日後と20日後に根を採取し,超純水に2時間浸漬することで根からの滲出物を採取した.乾物重と全リン含有量は,培土のリン濃度にかかわらず同程度であった.滲出された有機酸総量は,リン濃度区間で有意な差はなかったが,L. albusに比べてL. mutabilisでは滲出量が多い傾向にあった.滲出された有機酸は,主にクエン酸とリンゴ酸であり,リン濃度が低い区の方が全有機酸に占めるクエン酸の割合が増加した. L. angustifoliusとL. mutabilisは,低リン濃度区において,全リン含有量が著しく減少し,地上部の生育が劣り,総根長が減少したことから,低リン耐性の低い種であることが示唆された.なお,これまで報告がなかったL. mutabilisにおいて,根からクエン酸とリンゴ酸を主とした有機酸を多く滲出することが明らかになったが,本種がクラスター根を形成しないこととの関連性に興味がもたれた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで報告がほとんどなかった南米に起源をもつL. mutabilisについて,クラスター根が形成されないこと,低リン濃度条件下において,乾物重とリン吸収量が減少し,総根長が劣ることなどから,先行研究で多く報告されてきた地中海地域に起源をもつL. albusやL. leteusに比べて低リン耐性がやや低いことを示した.このことは新たな知見であり,本属植物のリン吸収特性機構を検証する上に興味ある特性を明らかにでき,評価できると考えている.また,クラスター根を形成しないにもかかわらず,L. albusと比較して,低リン条件における有機酸の総滲出量が多いことを明らかにし,さらに,滲出される有機酸の種類を同定できたことは今後の研究の遂行にとって重要な到達点である.さらに,本年度は予備的な試験で終わったが,根粒菌のnod遺伝子の転写を活性化するイソフラボノイドの一種のルテオリンが,根粒菌の増殖を低濃度で促進するという結果を得た.この点については,さらに詳細に検討を進めるとともに,難溶性リンの溶解能を有する根粒菌をルテオリンで前処理(プライミング)することで,根粒形成とリン溶解の機能を強化した共生系が構築でいる可能性がある.最終年度におけるその検証に期待が持たれる.次年度以降はこれらの知見を基盤にして,L. mutabilisに特化してさらに研究を進展させることで,根粒形成とリン吸収について新たな知見が得られる可能性があると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
25年度の研究においては,L. mutabilisに特化して,低リン条件における種々の形態学的,生理学的な特性を明らかにすることができた.これらの特性をより明確にするとともに,イソフラボノイドであるルテオリンで前培養した根粒菌の接種が,L. mutabilisの窒素栄養とリン栄養を改善させる可能性についてさらに詳細に検討し,それを技術化できるかを検証したい.研究代表者がこれまでに明らかにしてきたエンドウやダイズにおけるイソフラボノイドによる根粒菌プライミング処理を参考に,接種技術として炭のような多孔質資材を利用した根域への接種根粒菌の定着手法なども検討を進めたい.また,根から滲出される有機酸とルテオリンが,根系構造の変化とどのように関連して生じるのかについても明らかにしたい.ルーピンはルピノイド型根粒という特異的な形態の根粒を形成するが,初期の感染過程については明確でない点が多く,根の発育形態学的な観察とあわせて,異なるリン条件下における根粒形成と根系発育との関係を明らかにする予定である.なお,リン溶解根粒菌の探索は継続し,国内の多様な環境条件下に分布する菌の単離を行い,その溶解能を調査する.研究体制については,初年度と同様に2名の研究分担者とともに研究を遂行するが,本研究に関連するテーマを修士論文研究としている大学院生の協力も得ることとなっている.
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次年度の研究費の使用計画 |
ルーピンの根粒菌感染機構について,gusA標識根粒菌を利用して解析を進める予定であったが,導入実験には成功したものの,有機酸の解析に多くの時間を割く必要が生じ,感染実験は予備的な研究にとどまった.そのために,感染実験に必要な酵素等の試薬の購入を控え,最終年度において効率的に実験を進めることとしたために,物品費の一部と人件費を次年度に繰り越した. 感染実験に必要な酵素等の試薬類を購入するために物品費を支出し,調査,分析補助として必要なアルバイトを雇用するために人件費を支出する.また,特性の異なる根粒菌を国内の多様な圃場から単離するために旅費を支出する予定である.
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