研究実績の概要 |
低リン条件下でクラスター根を形成するルーピン(Lipinus属)における根粒菌の感染経路を明確にし,このような根系を形成する本属植物のリン吸収とリン溶解能をもつ共生根粒菌との関係を明らかにするために,3カ年の研究を遂行してきた.24,25年度にはL. albus, L. leteus, L. angustifolius, L. mutabilis間でクラスター根の形成の有無と程度には種間差異があることを示し,また,L. mutabilisではL. albusに比べて根からの有機酸(クエン酸とリンゴ酸)の滲出量が多いことを示し,本種がクラスター根を形成しないこととの関連性に興味がもたれた.本年度は,これらの根と根粒菌の感染との関係を明らかにするために,根粒菌のnod遺伝子の転写を活性化するフラボノイドであるルテオリンを異なる濃度で添加して振とう培養して根粒菌密度の変化を調査した.OD620値が1.0に達するのに要した日数は,無添加の対照区では13日であったのに対し,20μM区では21日であり,抗菌作用もあると言われるルテオリンがルーピン根粒菌の増殖を阻害する可能性が示唆された.また,根粒菌の挙動を調査するためのツールとして,gus遺伝子を本属2種から単離した根粒菌へ導入することを試み,いずれの系統にも導入することができ,その接種によって根の表面における根粒菌の存在を視覚的に明らかにすることができた.しかし,上述したクラスター根の形成と根粒菌の挙動との関係については,現時点では明確な結論が得られていない.一方,立案時に目的の1つとした炭を利用した根粒菌接種法の可能性を探るために,同様にgus遺伝子を導入した根粒菌を利用して,ダイズをモデルに接種試験を試みたところ,培地に根粒菌が生息していている条件下でも,炭を媒体に後から接種した根粒菌が感染することが示された.現在ルーピンへの応用を検討中である.
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