研究課題/領域番号 |
24658026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土井 元章 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40164090)
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研究分担者 |
細川 宗孝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40301246)
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キーワード | 園芸科学 / ダイコン / 春化 / 脱春化 / FLC / FT / 構成的花成促進経路 |
研究概要 |
昨年度までの実験に引き続いて,‘早太り聖護院’を標準品種として用い,FLOWERING LOCUS C(RsFLC)の下流で働く花成促進因子であるFLOWERING LOCUS T(RsFT)の発現を実生の子葉を用いて解析した.結果,高温遭遇によってRsFTの発現レベルが低下し,低温後の高温遭遇により脱春化が起こった実生でも低い発現量となった.しかし,低温遭遇が多くなり高温により脱春化が起こらなくなった段階では発現量は高く維持されていた.また,‘早太り聖護院’を20℃に100日以上置くと最上位葉のRsFTの発現が増加し,その後100%花芽分化した.また,20℃から30℃に移すことでも一部が開花するようになり, RsFTの増加が見られた.RsFTと同じくRsFLCの下流で作用するRsSOC1については,現在解析を進めているところであるが,「仮説4:春化の安定化に伴って,高温によりRsFLCのレベルが回復しなくなるのであれば,その下流遺伝子であるRsFT(やRsSOC1)の発現が増大している」との仮説が‘早太り聖護院’において検証された. 一方,RsFLCの増減と開花とが対応しない‘時なし’では,RsFTの発現量が高温遭遇によってもほとんど変化しなかった.‘時なし’では,20℃で100日間栽培してから30℃に移すと高率で開花することから,花成に対する低温要求量が極めて大きい品種であるとは単純には考えられず,春化による花成誘導経路意外に花成を促進する構成的経路が別途存在することが示唆された.また,この経路はRsFTとは独立していることが予想された. これらの結果から,「仮説5:花成に対する低温要求量の大きい品種はRsFLCの低下が遅い」の検証には,品種選定を改める必要があると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説は標準品種である‘早太り聖護院’には今のところよく当てはまっている.子葉や最上位葉で測定したRsFTと花成との関係は測定のタイミングとの関係がありそうで,仮説4はこの点に十分配慮した検証が今後必要と考えられた. ‘時なし’は,従来花成に対する低温要求が大きい晩抽性の品種として位置づけられていたが,種子春化が起こらないことや新たに構成的な花成促進経路の存在が示唆される結果が得られており,標準品種である‘早太り聖護院’とは異なった花成の経路を持つという興味深い結果が得られている.ただし,低温や高温に対するRsFLCの挙動は‘早太り聖護院’と類似しており,この点からしてもRsSOC1やRsFTに至るより下流の経路が‘早太り聖護院’とは異なっていることが推察される.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き標準品種として‘早太り聖護院’を用いて,種子春化・脱春化時のRsFLCの挙動とRsFT,RsSOC1の挙動とを比較することで,春化的花成促進経路における脱春化と春化の安定化の機構ついて明らかにする.「仮説5:低温要求量の大きい品種ほど低温遭遇に伴うRsFLCの発現レベルの低下が遅れる」の検証には,‘早太り聖護院’の他に‘和歌山’,‘干し理想’を加えて検証する.「仮説6:低夜温後に高昼温で脱春化させた場合にはFLCの発現レベルは高い状態が維持される」については,‘早太り聖護院’を用いて検証する.また,登熟時に低温に遭遇させた種子が得られているので,「仮説7:登熟春化した種子を乾燥後再吸水させて発芽させた際にはFLCの発現レベルは低い」について,登熟春化の発生状況を個体別に確認しながらRsFLCの発現レベルを解析することで検証する. 低温遭遇前,低温遭遇後(脱春化が起こる段階,脱春化が起こらない段階)のRsFLC座のヒストンH3K9/K27のトリメチル化状態を調べる. 20℃で長期間栽培した‘早太り聖護院’,‘時なし’の低温および高温による花成反応とRsFLC,RsSOC1,RsFTの挙動を明らかにし,‘時なし’において存在が示唆された構成的花成促進経路と花成関連遺伝子の発現との関係について検討を加える. 得られた成果をとりまとめて研究発表を行うとともに,論文としてとりまとめる.
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次年度の研究費の使用計画 |
‘早太り聖護院’と‘時なし’を用いて,花成反応との関係を明確にしながらRsFLCとRsFT,RsSOC1の関係解析を優先的に進めた.結果,RsFLC遺伝子座のヒストンのトリメチル化レベルの分析に予定していた実験が次年度送りとなったため,その経費分が次年度使用額として繰り越された. 次年度使用額は,バイオラプターのローター購入,分析用キットの購入に充てる.また,RsSOC1の解析が完了していないので,RT-PCR用のキットや試薬を購入し,すみやかにこの部分の研究を完了する.
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