研究課題/領域番号 |
24658033
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
泉 秀実 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50168275)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 微生物汚染 / 農業用水 / 農薬溶液 / 青果物 / 細胞壁分解酵素 |
研究概要 |
青果物の微生物汚染防止は、栽培から収穫にかけての微生物汚染源と青果物との接触を最小限にし、微生物危害を未然に防ぐ栽培法を実践することで行う。潜在的汚染源として知られる農業用水に加えて、農業用水に希釈・溶解した農薬も微生物汚染源として重要であり、それらからの微生物汚染の機構解明を明確にしない限り、青果物の高度な衛生管理法の確立は実現できない。 そこで本研究の初年度には、果実(カキ、ウンシュウミカン、ウメ)園地と野菜(キュウリ、レタス、ブロッコリー)園地を対象に、農業用水、農業用水によって希釈・溶解された農薬および各青果物の微生物叢を解析し、これらの環境接触物から青果物への微生物汚染の影響を明らかにした。 農業用水と農薬溶液の微生物叢を比較すると、一般には真菌種よりも細菌種が多く検出され、微生物数では水源と農薬の種類との組合せで結果が異なり、農業用水>農薬溶液、農業用水<農薬溶液、農業用水=農薬溶液の3様が見られた。果実類は、野菜類に比べて付着微生物数が検出限界値(102 CFU/g)以下と少なかったが、農業用水または農薬溶液から果実への移行菌(主に植物病原菌あるいは土壌由来菌)は比較的多く、カキ果実で微生物叢の25%、ウンシュウミカン果実で12%、ウメ果実で8%と推定された。一方、野菜類は細菌数および真菌数が高い(103~106 CFU/g)にもかかわらず、検出される植物病原菌および土壌由来菌は、レタス(微生物叢の19%が農薬溶液から移行)を除いて、農業用水・農薬溶液よりも土壌からの移行菌が多いと推定された。すべてのサンプルで、遺伝子検出法によるヒト病原菌(サルモネラ、腸管出血性大腸菌およびリステリア)は陰性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、農業用水、農業用水によって希釈・溶解された農薬および青果物の微生物叢の解析を目的とした。申請当初に比べて、対象とする野菜の種類が若干変更されたが、果菜類(キュウリ)、葉菜類(レタス)、茎菜類(ブロコッリー)の3種類の野菜園地で研究を実施し、当初目的に沿って実験が進められた。果実類については、当初計画通りに、カキ、ウンシュウミカン、ウメ園地を対象として、実験を実施した。 本年度の研究から、これらの青果物および青果物園地の農業用水・農薬溶液からは、ヒト病原菌は検出されず、微生物的安全性が保障されたことと、農業用水・農薬溶液から青果物への移行菌は、果実類ではカキ果実、野菜類ではレタスが多いことが明らかとなった。これらの移行菌の菌種同定をした結果、植物病原菌と土壌由来菌が主体であり、次年度にこれらの微生物と農業用水および農薬成分との相互関係を解明する研究の準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、農業用水、農業用水によって希釈・溶解された農薬および青果物の微生物叢を解析した。その結果、カキ園地およびレタス園地における農業用水・農薬溶液からの青果物への移行菌(植物病原菌および土壌由来菌)の多いことが明らかとなったので、次年度は、これらの保存菌株を用いて、農業用水および農薬溶液から検出された微生物種の菌液と数種農薬混合後の微生物の挙動の把握を試みる。具体的には、農業用水から分離された微生物(細菌および糸状菌)を液体培地に、103 CFU/mlおよび106 CFU/mlとなるように懸濁液を作製し、これらの菌懸濁液と園地で使用される農薬とを混合して、微生物叢(菌数および菌種)の挙動を解析する。保存菌株のみでは、微生物挙動傾向が十分に得られなかった場合には、次年度も、カキおよびレタス園地から、青果物と農業用水・農薬溶液をサンプリングして、再度微生物叢の解析と微生物サンプルの収集を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
サンプルの微生物数(細菌および糸状菌)の測定は寒天平板法で、また微生物種(細菌および糸状菌)の同定はMicroSeq法で行う。微生物学的安全性については、サルモネラ、腸管出血性大腸菌およびリステリアの存在について、DNA検出法であるLAMP法で確認する。これらの実験に必要な機器類は現有のものを使用するため、消耗品を購入する。ただし、微生物種の同定に使用するシークエンサーについては、その使用頻度が増加することから、研究費をシークエンサーの保守費にも使用する。昨年度と同様の農業用水、農業用水によって希釈・溶解された農薬および青果物の微生物叢の再解析実験には、本年度からの繰越金を充てる。また、研究成果発表として、国際学会からの依頼講演があるため、その旅費としても研究費を使用する。
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