研究課題/領域番号 |
24658033
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
泉 秀実 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50168275)
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キーワード | 微生物汚染 / 農業用水 / 農薬溶液 / 青果物 / 細胞壁分解酵素 |
研究概要 |
青果物の微生物汚染防止は、栽培から収穫にかけての微生物汚染源と青果物との接触を最小限にし、微生物危害を未然に防ぐ栽培法を実践することで行う。潜在的汚染源として知られる農業用水に加えて、農業用水に希釈・溶解した農薬も微生物汚染源として重要であり、それらからの微生物汚染の機構解明を明確にしない限り、青果物の高度な衛生管理法の確立は実現できない。 そこで本年度は、初年度の研究成果を基に、農業用水・農薬溶液から青果物への移行菌が多かったレタスおよびカキから同定された移行細菌6種と移行糸状菌6種に、ヒト病原菌としてEscherichia coli O157:H7(毒素陰性菌株)を加えた13菌株について、これらの微生物の増殖と農薬成分との相互関係を解明する研究を実施した。 対象とした13菌株の微生物のうち、4細菌(Chryseobacterium indologenes、Enterobacter cloacae、Pseudomonas oryzihabitans、E. coli O157:H7)および1糸状菌(Aureobasidium pullulans)が、5種類の農薬(殺菌剤あるいは殺虫剤)中で増殖することが確認されたが、これらの農薬の有効成分中では、いずれの微生物も生存あるいは増殖しないことが明らかとなった。以上のことから、農薬溶液は青果物の汚染微生物やヒト病原菌の増殖を促す可能性があり、その増殖には、主に農薬有効成分以外の含有成分(乳化剤・展着剤)が関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究から、青果物(キュウリ、レタス、ブロッコリー、ウメ、カキ、ウンシュウミカン)および青果物園地の農業用水・農薬溶液からは、ヒト病原菌は検出されず、微生物的安全性が保障されたことと、農業用水・農薬溶液から青果物への移行菌は、野菜類ではレタス、果実類ではカキが多く、これらの移行菌を同定した結果、植物病原菌と土壌由来菌が主体であることを明らかにした。 本年度は、当初の研究予定通り、同定されたこれらの微生物から6種の細菌と6種の糸状菌を選定し、青果物汚染微生物と農薬溶液および農薬成分との相互関係を解明する研究を実施した。初年度の研究からは、青果物栽培環境からヒト病原菌は検出されなかったが、ヒト病原菌と農薬溶液および農薬成分との関係を明らかにするために、新たにEscherichia coli O157:H7(毒素陰性菌株)を加えた実験も実施した。その結果、農薬溶液は青果物の汚染微生物やヒト病原菌の増殖を促す可能性があり、その増殖には、主に農薬有効成分以外の含有成分(乳化剤・展着剤)が関わっていることが示唆され、十分な研究成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究で、農業用水、農業用水によって希釈・溶解された農薬から青果物に移行する細菌および糸状菌が存在し、それらの青果物汚染微生物に加えて、Escherichia coli O157:H7(毒素陰性菌株)も、数種農薬溶液中で増殖することが明らかとなった。この結果を受けて、これらの微生物が酵素の産生を介して、青果物内に侵入する可能性があるのかどうかを明らかにするために、次年度は、微生物が産生する細胞壁分解酵素と青果物中に含まれるその基質を推定する。最初に、対象微生物を液体培地中で振盪培養した培養液を粗酵素液とし、培地に炭素源として数種単糖類、少糖類、多糖類および各青果物のアルカリ抽出物を添加した区を設け、数種p-nitrophenol(PNP)を基質とする酵素活性を測定する。 さらに、高い活性を示す微生物が存在した場合は、その微生物が産生する細胞壁分解酵素について、タンパク質量の推定および精製を行い、酵素特性(最適温度、pH、基質特異性など)を調査して、侵入過程における機作を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究に使用する農薬については、対象微生物が検出されたレタス圃場およびカキ圃場における実際の使用農薬に絞ったため、当初の農薬購入予定金額よりも減じられた金額が、残額として残った。 次年度は、より多くの農薬成分と青果物汚染微生物およびヒト病原菌との関係を明らかにするために、新たに種々の農薬を購入し、農薬成分と微生物増殖との関係を見出す実験を加える。このデータと本年度までのデータとを合わせて、酵素を産生する微生物を見出し、微生物が産生する細胞壁分解酵素と青果物中に含まれるその基質を推定する。
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