研究実績の概要 |
イネの有機栽培に用いられる育苗培土には, イネもみ枯細菌病などの苗病害の発生を抑制する効果が存在し, 同培土懸濁液から単離された細菌の中には, 苗病害抑制活性をもつ菌株が存在することをすでに報告した. 本年度は, 独立にイネ有機栽培を行っている農家から分譲された育苗培土12点とコントロールとして市販の慣行育苗培土2点を用いて, 培土の理化学性と微生物叢について比較解析を行った. その結果, 土壌の理化学性は, 慣行育苗培土と有機育苗培土で異なり, また由来の異なる有機育苗培土間に共通性は認められなかった. しかし, 有機育苗培土および慣行育苗培土からまるごと抽出したDNAを鋳型として用いた16S rDNA増幅断片の, 次世代シークエンサーによる微生物多様性解析では, 慣行育苗培土に比べ, 有機育苗培土に共通して, 微生物種の豊富さと均等性が明らかに高い傾向が認められた. イネの育苗過程では、催芽処理した種子が、潅水された培土に播種され、育苗がなされる。培土中の微生物相に対し、潅水や、発芽後の種子から分泌される有機物は、微生物の生存環境に大きな影響を与える要因となると推察し、潅水前の培土、潅水後の培土、潅水・播種後5日目の培土から、それぞれDNAを単離し、16Sおよび18S rDNA断片のPCR-DGGE法および16S rDNA断片の塩基配列解析を行った。その結果、慣行育苗培土では、潅水や播種により微生物相が大きく変動したが、有機育苗培土では潅水や播種による影響は少なく、微生物相が安定しており、ロバストネス(堅牢性)が高い傾向が認められた。したがって、有機育苗培土における病害抑制効果の原因のひとつとして、有機育苗培土に共通した微生物相の堅牢性による病原細菌の増殖抑制が考えられた。
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