本研究の目的は、蛾類の聴覚特性を調べ、その仕組みを明らかにすることにある。ヤガ類はコウモリの発するエコーロケーション音を受容し音源から遠ざかる回避行動をとるが、この行動を誘発する効果的なパルスパターンを探索することが、農業害虫の防除法の開発につながる。ところが、コウモリは種ごとに異なるエコーロケーション音を出しており、種ごとに違うパルスパターンをどのような方法でヤガ類は認識しているか、解明する必要があった。 最終年度では、特に蛾類が音を認識する時間幅がどのようになっているかに注目した。たとえば、パルス長5msecの音を10Hzで出した時と、パルス長100msecの音を0.5Hzで出した時、同様の反応閾値を示した。この仕組みは、これまでの成果である音を受容した後、その情報が胸部神経節から脳に送られる過程で、パルス長の長さによって興奮の起こるタイミングを変えるなどの情報処理過程を通して反応特性が作られていることが示唆された。 コウモリの種ごとに異なるエコーロケーション音に対して反応できたり、パルス長1msecの短いパルス音にも、パルス長100msec付近のパルス音にも反応できたりするのは、パルス長とパルス頻度の積として表す占有率が、ある一定の値に近いところで回避行動を誘発するという仕組みを考えることで理解することができる。蛾類の聴覚世界は、2秒くらいまでの時間幅内の積算で音を認識していることが示唆された。 蛾類の防除装置を開発する場合に、電気回路設計上の制約の中で有効なパルスパターンを考えることになるが、ある占有率の範囲内でパルスパターンを選べることを提案することができた。
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