害虫防除には殺虫剤を利用した化学的防除と天敵生物を利用した生物的防除があるが、一般に天敵昆虫類は殺虫剤の悪影響を受けやすく、殺虫剤と天敵昆虫類の併用は難しいと考えられてきた。しかし、害虫オオタバコガの有力天敵オオタバコガコマユバチは糖水溶液摂取時に何かの匂いを与えるとその匂いを学習し、その匂いに誘引されるようになる。これまで室内実験では、糖水溶液摂取時に一部の殺虫剤の匂いを与えた後、その殺虫剤の匂いに誘引されるようになることが明らかになった。そこで、まず、最適な学習条件を確立するために、糖に対する摂取行動を調べ、次に、殺虫剤が天敵昆虫の誘引剤として利用できる可能性について九州大学とジョージア州のアメリカ農務省研究所において風洞を利用した実験を行った。 オオタバコガコマユバチはショ糖、ブドウ糖、果糖の3つの糖は寿命を極めて長くすることから餌として適していたが、単独でそれらの糖を与えた場合は、満腹になるまで摂取する。しかし、ショ糖やブドウ糖を短時間与えた後に、果糖を与えると摂取開始後すぐに摂取をやめることが明らかになった。寄生蜂による糖の識別を実験で証明した初めての研究である。 メタミドホス、トレボン(エトフェンプロックス)、スミチオン(MEP乳剤)、除草剤ハーブニート(グリホサート)をそれぞれ散布した植物上でショ糖水溶液を摂取させた後、寄主をおいて寄主探索行動を観察したが、対照であるバニラを散布した植物と比べ、その滞在時間、産卵数は有意に低かった。蜂は、まずショ糖水溶液を摂取したが、その後の寄主を探索する行動は鈍く、農薬が蜂自体に悪影響を与えている可能性があった。USDAの研究所で同様の実験を行ったが、殺虫剤散布区で滞在時間や寄主探索効率が改善されるという結果は得られなかった。蜂が学習しやすい匂いを農薬に付加することで、農薬の散布による寄生蜂の有効性向上に繋がる可能性がある。
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