研究概要 |
海外より飛来することが示唆されている日本脳炎媒介蚊であるコガタアカイエカの飛来源を推定する手段として,微量元素分析を試みた.放射化分析ならびに放射光照射の長距離移動性昆虫の発生源の推定への応用は初めての試みであり,学術的に大きな特徴である. これまでの実験で,土壌および蚊(合計59検体)を機器中性子放射化分析および安定同位体比の解析に供し,代表的な微量元素24元素を抽出し,コガタアカイエカとその生息地の土壌との両方に共通する元素種をある程度絞り込むことができた.一方で大型放射光施設(SPring-8)において放射光解析を新たな試みとして取り入れ,放射化分析で測定不能であった元素類の再評価,および成虫各部位における元素マッピング等の予備的な実験をほぼ計画通りに実施した(課題番号2011A 1089, 利用課題実験報告書).その結果,乾燥した蚊の各部位にX線を照射し,Ca, Mn, Fe, Cu, Zn, Crに対応するチャンネルのスペクトルを記録しマッピングを行った結果,部位や個体間で変動が見られた元素が存在する一方で,採集地による明確な傾向が見られない元素があることも明らかになった. 本年度は,仁科記念サイクロトロンセンター(NMCC:岩手県滝沢村/2014.1より滝沢市)において,PIXE分析を実施し微量元素を解析した.PIXE分析の中でも微量試料の測定に最適である無標準法の条件検討を行い,適用可能な状態にした.無標準法が適用可能となったことで,従来の放射化分析では難しかった蚊1個体あるいは1個体単位での部位別測定が可能となった.また,無標準法では放射化分析の場合よりも定量可能な元素数(13元素:Na,Mg,P,S,Cl,K,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Br,Sr)がほぼ倍増し,特にPやS等,生物多量元素についての知見を得ることが可能になった.
|