今後の食糧・植物バイオマスの持続的な増産には、肥沃度の低い土壌環境で少ない肥料投入で高生産する植物の開発が必要である。これまで、低ミネラル環境に耐性を付与する遺伝子は複数同定されているが、植物個体の生育量に対する必須元素の要求量を低下させた例はない。 本研究では、植物の微量必須元素のホウ素を対象に、植物個体のホウ素要求量を低下させる新規遺伝子の同定と解析を目的とした。モデル植物シロイヌナズナを用いて、対照株がホウ素欠乏障害のために生育抑制を示す低ホウ素栄養条件において、生育抑制が緩和された変異株を新たに単離し、原因遺伝子の解析を行った。 ホウ酸輸送体機能欠損株に塩基置換を誘発するEMS処理を行った。ロックウール栽培と固形培地でM2種子をホウ素欠乏条件下でそれぞれ1万7500種子ずつ栽培し、対照株と比較してホウ素欠乏処理による葉の展開抑制の緩和を示した株を11株単離した。11株はホウ素十分条件では成育に対照株と違いが認められなかったことから、ホウ素欠乏条件下で生育改善が引き起こされることが明らかとなった。葉の展開抑制が顕著に回復した4株を対象に、様々なホウ素条件下で水耕栽培をし、葉のホウ素濃度を測定したところ、対照株との違いは認められなかった。これより、生育抑制の緩和はホウ素輸送の回復に起因するのではなく、ホウ素の要求量の低下によることが示された。変異の原因遺伝子を解析したところ、それぞれの変異株で糖転移酵素をコードすると予想される遺伝子に変異が見出された。これらの遺伝子はホウ酸の結合部位である細胞壁ペクチン質多糖RG-IIの合成酵素遺伝子群と共発現しており、細胞壁合成に関与すると考察された。 本研究結果は、必須元素の要求量を低下させる新たな方法論を示し、ホウ素の要求量を低下させる遺伝子変異の同定に成功した成果となった。
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