研究課題/領域番号 |
24658064
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
和田 信一郎 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60108678)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | リン酸固定 / 火山灰土壌 / アロフェン / 土壌化学 |
研究概要 |
大分県農林水産研究指導センターおよび九州沖縄農業研究センターの圃場で土壌試料を採取した.試料の全リン含量などの一般分析を行った後,新日本製鐵住金より製鋼スラグを入手し,0~40%となるように混合した試料を作成した.各試料の半量は加速試験として密閉容器中で100 ℃で反応させ,半量は25 ℃で反応させた.所定時間反応させた後水抽出を採取して分析した.また土壌についてはリン酸イオンの吸着特性についても調べた. スラグ添加により水抽出液のpHは6.5-7.5から8.5程度にまで上昇し,カルシウムイオン濃度も0.3 mmol/L程度から3-5 mmol/Lに上昇した.加えて,未処理試料では0.0001 mmol/Lのオーダーであったリン酸濃度が0.001 mmol/Lのオーダーまで上昇した.水抽出試験結果を,リン酸塩鉱物の溶解度ダイヤグラム上にプロットしたところ,未処理の黒ボク土ではヒドロキシアパタイトに関して未飽和の領域にプロットされたのに対し,製鋼スラグを添加して反応させた土壌試料では,プロットがヒドロキシアパタイトに関して過飽和,リン酸二カルシウムやリン酸八カルシウムに関してやや不飽和の領域にプロットされるようになった. さらに,圃場容水量に保った土壌試料に,水酸化ジルコニウムディスクを埋設して,一定期間内にディスクに拡散移動するリン酸イオンの量を測定した.その結果,100 ℃での加速試験を行った資料では,製鋼スラグ添加量が増すにつれてディスクへのリン酸イオンの拡散移行量が増加し,製鋼スラグを8%添加した試料では2倍に増加していた. これらの結果から,製鋼スラグ添加によるpH上昇およびカルシウムイオン濃度の上昇により,原土中のリン酸アルミニウムやリン酸鉄の一部ががリン酸カルシウムに転換されつつあるのではないかと推定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
室内試験は概ね計画通りに進行した.ただし,NMRおよび透過電子顕微鏡を用いた鉱物の変質程度の解析については,用いた製鋼スラグに相当量の金属鉄が含まれていたためにNMRの良好なシグナルを得ることができなかった.また透過電子顕微鏡観察のためには,土壌の粘土画分を採取する必要があるが,おそらくスラグに含まれる多量のケイ酸カルシウムなどのため,粘土画分を非破壊で分散させることができず,観察資料の作成ができなかった.これらの点は,研究立案上の思慮不足であった. 野外試験については,当初主として利用する予定であったリン酸ん高蓄積土壌が,大分県農林水産研究指導センターの研究のための利用のために制限されたため,蓄積レベルの低い試料を用いざるを得なかった.さらに,当初研究に協力してもらうことを予定していた大分県の佐野研究員が都合により退職したことと,北部九州水害のため,試料採取および野外試験圃場として予定していた圃場の利用ができなくなったために研究実施が遅れてしまった.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,室内試験は継続する.反応時間は短くなるが,新たに長崎県および鹿児島県から高リン酸蓄積土壌試料を入手できるめどが立ったので,それらを室内実験用の追加試料とする予定である. 鉱物変質の研究手段としてのNMR測定は25年度は行わない.粘土採取は難しそうなので,湿式のふるい分けによって細粒分を採取し,電子顕微鏡観察資料とする予定である.また,リン酸塩の形態変化については,九州シンクロトロン光研究センター内のビームラインを利用してX線吸収分析をすべく,課題申請中である. 野外試験については,大分県農林水産研究指導センターの協力を得られることになったので,試験を大分県の九重試験地から,研究指導センター内および周辺の黒ボク土畑に変更して実施する.
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次年度の研究費の使用計画 |
支出項目については,当初の交付申請時からの変更はない.つまり,物品費,旅費およびその他(分析装置保守)のために使用し,人件費および謝金の支出は予定していない.ただし,備品としては,23年度より別目的で使用中であった恒温器が24年度に使用可能になったために,新たに購入する必要がなくなった.そのかわりに25年度,抽出試験に用いる往復振とう器(一式290,000円)を購入予定である.また,研究打ち合わせおよび試料採取・現地試験のための旅費として約550,000を使用,また分析装置保守のために約500,000円を使用し,残額は分析器具,試薬類購入のために使用する予定である.
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