研究課題
これまでに「ある種の翻訳阻害剤により細胞が高濃度の塩に対する抵抗性を獲得する」という予備的な実験結果を得ているが、この現象は、既知の浸透圧耐性メカニズムから説明することは困難であり、それゆえに浸透圧(塩)耐性の新しいメカニズムの存在を示唆するものとなっている。本研究は、遺伝学的手法、生理学的手法ならびに生化学的手法を駆使して、翻訳阻害剤による浸透圧抵抗性獲得のメカニズムおよびその遺伝的背景を明らかにすること、そして、それを基礎とする新しい浸透圧ストレス応答の遺伝子発現ネットワークの全体像を明らかにすることを目的とする。本年度はまず、細胞の塩耐性に対する様々な薬剤の効果を調べた。翻訳阻害剤であるクロラムフェニコール、カスガマイシン、テトラサイクリンの添加は細胞の塩耐性を上昇させた。翻訳阻害剤でも、ストレプトマイシン、ネオマイシン、フシジン酸は効果がなかった。また、転写阻害剤やDNA合成阻害剤も効果がなかった。次に、各種翻訳阻害剤存在下におけるシグマE(膜結合型シグマ因子)の遺伝子発現についてqRT-PCRを用いて調べた。まず、通常の状態(翻訳阻害剤非存在下)においては、浸透圧ショック後数時間経過した後、シグマEの一過的発現が見られた。シグマEの一過的発現は塩濃度が高いほど、その開始が遅くなっていた。おもしろいことに、翻訳阻害剤存在下においては、シグマEの一過的発現が早く始まるようになっていた。
2: おおむね順調に進展している
まず、細胞の塩耐性(浸透圧耐性)に対する各種薬剤の効果を整理することにより、翻訳阻害剤にのみ効果があることを明らかにした。また、すべての翻訳阻害剤に効果があるわけではないことも明らかにした。また、翻訳阻害剤によりシグマEの一過的発現が早く始まるようになっていることを明らかにしたが、この発見は細胞内における未知のストレス耐性遺伝子発現ネットワークを解明する上での第一歩となることを期待させるものであった。
1.シグマEの一過的発現が塩耐性(浸透圧耐性)の原因になっているのか、あるいは単なる結果なのかを明らかにする。2.細胞の塩耐性に対するシグマE以外のシグマ因子の効果を明らかにする。
該当なし
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