アラニン(Ala)要求性変異株をAla添加最少寒天培地上に塗布し37℃で培養すると2日後にコロニーを形成し、さらに培養を継続すると出現するコロニーの数は増加する。これらのAla非要求性サプレッサー変異株は、典型的なストレス誘導性突然変異の結果生じたものと考えられる。本研究ではこの現象についてその分子メカニズムを明らかとするための一環として、Ala要求性大腸菌変異株を0.1 ug/ml~100 ug/mlのAla添加最少培地で培養し、対数後期に達した細胞集団中に占めるAla非要求性サプレッサー変異株の割合を、Alaを含まない最少寒天培地に生育するサプレッサーの数を計測することによって調べた。その結果、サプレッサーの出現頻度は添加したAla量に依存して低下した。また、最少培地で培養開始後経時的にサプレッサー株の出現をモニターした結果、培養開始約30時間からサプレッサーの出現が観察された。これらのことから、Ala飢餓ストレスを感知した細胞が何らかのシステムを介して突然変異頻度が上昇したこと、そして、Ala飢餓ストレス暴露後約30時間までの間にこの細胞内の代謝変化が生じて突然変異が蓄積し、Ala飢餓環境での選択を受けサプレッサー変異株が出現したものと考えられた。 また、Ala要求変異株からトランスポゾン挿入変異ライブラリーを構築し、Ala無添加最少寒天培地で生育しないあるいは遅延するクローンの選択を行った結果、現在複数の候補クローンの分離に成功している。今後は、これらのクローンの選択をさらに進め、それらのトランスポゾンの挿入遺伝子を同定することによって、ストレス誘導性突然変異出現に関与する因子の同定が期待される。
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