本研究は、国内のさまざまな地域の水田などから昆虫死体を多数収集して、これらの腸管から耐熱性を示すLysinibacillus様菌株を分離する。分離された菌株を飼育されたショウジョウバエに噴霧することにより、半翅目に対する殺虫効果を確認する。半翅目に対して強い殺虫効果を示す菌株の結晶性タンパク質の遺伝子配列をすでに知られている鱗翅目に有効なCryタンパク質などに基づいて設計されたプライマーを使用して解読し、アミノ酸配列データベースを確立する。これらの菌株で鞘翅目など鱗翅目以外の昆虫に広い殺虫スペクトルを示す菌株を選別し、生物農薬として使用する系統を確立することを目的としている。さらに、将来的には毒素タンパク質の一部をイネにペプチドが発現されるような形で導入して、耐虫性系統の作出を目指している。平成24年度から27年度の研究では、双翅目、半翅目、鱗翅目昆虫を約20000個体収集し、80℃10分の耐熱性を示すBacillus属類縁細菌株約5000株を取得し、培養性状と顕微鏡観察によって、これらのうち約2000株がLysinibacillus属近縁細菌として選別した。今年度はこれらの菌株で16S rRNA配列を確認したところ、最終的に約500株がLysinibacillus属に属することが判明した。また、この解析によってこの属の多様性が非常に大きいことが確認された。引き続きCryタンパク質のアミノ酸配列の分析を行ったが、使用したプライマーが機能しない菌株が多かったため、共通に使えるプライマーの設計ができなかった。分離された菌株はグリセロールを50%になるように加えて-80℃で保存し、利活用を希望する研究者に譲渡する態勢を整えた。
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