化学窒素肥料には、コストや環境汚染などの問題がある。そこで、植物に窒素源を与える手段として、窒素固定細菌を利用が考えられる。窒素固定細菌が有する酵素ニトロゲナーゼにより、気体窒素をアンモニアに変換しこのアンモニアを植物の窒素源として利用させる方法である。現在、窒素固定細菌は3種に大別されるが、本研究ではサトウキビ由来の共同的窒素固定細菌Gluconobacter diazotrophicus(以下GDiと略)を対象とした。DGiは、宿主特異性が緩やかで、サツマイモなどの作物とも共生でき、窒素固定能以外にも植物成長促進作用を有するため、農業への利用が期待されている。GDIの有効利用を目指すに当たり、その性質を検討した。先ず、GDiは30 mM程度以上のリン酸を含む固体培地で培養した場合に菌体が粘性を帯びる現象を見出し、本粘性物質はレバンと予想された。細胞外多糖は、植物への感染・定着にとって重要である。そこで、Gdiのレバン合成酵素破壊株を作製し、産生された多糖がレバンであることを確証した。植物への感染、定着には、活性酸素種(ROS)耐性も重要である。Gdiが植物に侵入すると、植物は免疫反応としてROSを産生するため、GdiがROS耐性を失うとスムーズな感染に支障が出る。そこで、GdiのROS耐とレバンの相関を調べた結果、レバンの合成によりROS耐性が高められることを明らかにした。レバンの存在は、DGiの感染と植物体への進入にクオラムセンシング機構の存在を示唆したが、この機構の稼動は明瞭には見られなかった。
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