制限酵素はDNA上の特異的な配列を認識して切断することから、遺伝子マニピュレーションのツールとして汎用されている。6塩基対のパリンドローム配列を認識する制限酵素であるEcoT38Iは4通りの配列を認識し、DNA認識ドメインと切断ドメインがリンカーを介して連結しているという一般的な制限酵素とは異なるユニークな性質を持つことを我々はこれまでに明らかにしている。そこで本研究では、立体構造情報をもとに様々な変異酵素を構築して、それらの機能について分子間相互作用に着目して解析を行った。得られた成果は以下の5点にまとめられる。 (1)DNA切断ドメインだけではヌクレアーゼ活性を示さないが、DNA認識ドメインを共存させると微弱な制限酵素活性を示したことから、ドメイン間の相互作用が存在することを見出した。(2)本酵素が特異的な配列を認識して高い切断活性を維持するためには「適切な長さ」のリンカーが必要であることを見出した。(3)立体構造情報をもとにDNAと相互作用するアミノ酸残基を選択して変異酵素の特異性の変化を解析した結果、予想とは異なる残基が認識配列G(G/A)GC(C/T)Cの(G/A)と(C/T)の認識に重要な役割を果たしていることを見出した。(4)当該アミノ残基を他のアミノ酸残基に置換した結果、GAGCTCだけを特異的に切断する酵素に改変することに成功した。(5)変異酵素とDNAとの動的相互作用を解析した結果、当該アミノ酸残基は塩基の認識だけではなく、酵素とDNAとの親和性に深く関わっていることが示唆された。 本研究により、新奇な構造を持つ制限酵素EcoT38IのDNA認識・切断メカニズムに関する基礎的知見ならびに、本酵素のDNA切断ドメインを利用した人工制限酵素構築のための分子基盤を得ることができた。さらなる変異導入により、ゲノム編集等に利用可能な人工制限酵素を創製することが可能であろう。
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