研究課題
挑戦的萌芽研究
Acaryochloris marinaへのプラスミド(発現ベクター)の導入により、クロロフィル組成の改変を試みた。A. marinaは、クロロフィルdを主要なクロロフィルとして、またクロロフィルaを微量クロロフィルとしてもっている。そこで、本来A. marinaがもたないクロロフィルbを合成する酵素の遺伝子であるCAOを発現ベクターに組み込み、A. marinaへ導入した。得られた形質転換体では、クロロフィルbの蓄積は検出されなかったが、その代わりクロロフィルdおよびクロロフィルbにそれぞれ特徴的なホルミル基の両方をもつ新奇なクロロフィル([7-ホルミル]-クロロフィルd)が細胞内に蓄積されていた。天然には存在が確認されていない本クロロフィルは、クロロフィルdへのエネルギー移動に機能することが判明した。新たな遺伝子操作技術の確立については、トランスポゾンタギング系の開発において進展がみられた。トランスポゼースがトランスポゾン内部に存在しないmini Tn5由来ベクターを改変し高効率化を図った。既報に基づき、ベクターのトランスポゼース遺伝子に点変異を導入しアミノ酸残基の置換を施した。さらに、トランスポゼースの認識部位の配列を至適化した。モデルシアノバクテリアであるSynechocystis sp. PCC 6803に対して作製したベクターを接合法により導入したところ、非常に高い効率で形質転換体を得た。選抜した形質転換体についてトランスポゾンの挿入位置を決定したところ、すべての形質転換体でゲノム中にトランスポゾンが挿入されていた。本ベクターを用いた際のトランスポゾンの転移頻度は、これまでに他のベクターで報告されている頻度と比較して数百倍ほど高かった。この改変したベクターがA. marinaでもトランスポゾンタギングに利用できるのかどうかについては、現在検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
本年度の進展の一つとしては、遺伝子導入によりクロロフィル組成を改変するという代謝工学的アプローチがA. marinaにおいても可能となったことである。さらに、結果としてこれまでに存在が確認されていない新たな分光学的性質を有したクロロフィルを生体内で蓄積させることに成功し、その色素が光エネルギー捕集に関与可能なことも示すことができた。これらの成果は、今後光化学系の色素組成を改良するための基礎となる知見であろう。もう一つの進展は、順遺伝学的解析に必要なトランスポゾンタギングの高効率化に成功したことである。本年度は、ベクターの改変による効果をモデルシアノバクテリアを対象として確認したことが主たる成果であったが、この結果はA. marinaへの応用を期待させるものである。現在、改変したベクターを用いてA. marinaでのトランスポゾンタギングが可能であるのかを検証中であるが、良好な結果が得られつつある。以上の結果を鑑みて、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
当初の目的の一つであるトランスポゾンタギングについては引き続き検討を進め、実験系が確立し次第クロロフィルd含量が低下した変異体などのスクリーニングを開始する予定である。また、もう一つの目的である遺伝子ターゲッティングについては、接合法による自殺ベクターの導入のみならず、電気穿孔法の検討も進める。特に、これまでにA. marinaへのプラスミドの導入に実績のある接合法と比較すると、電気穿孔法では詳細な条件検討を行う必要がある。しかし、トランスポゾンタギング系の開発についての目処が立ってきたので、今後は遺伝子ターゲッティング系の開発に注力したい。
当初の計画に従い、次年度の研究費は物品費を主として使用する予定である。本研究を推進する上で新たな購入が必要とされる高額機器は無いので、研究費は分子生物学実験等に使用する消耗品や研究成果を発表するための旅費などに充てる予定である。
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