研究課題/領域番号 |
24658083
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居 克実 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (40253520)
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研究分担者 |
田代 康介 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00192170)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 好熱性ウイルス / Inovirus / replicative form / 一本鎖DNA / 溶原性 / Thermus thermophilus |
研究概要 |
長崎県小浜温泉排水口沈殿物サンプルより、ウイルスの探索・分離を行った。ウイルスDNAを取得するために、一般的に用いられる塩化セシウム、またはスクロースを用いた密度勾配超遠心分離法による精製を行ったが、本法ではウイルスを精製出来なかった。そこで、繊維状ウイルスが宿主細胞中で二本鎖環状のReplicative form (RF)を取ることから、アルカリ溶菌法によってウイルス感染細胞からウイルスDNAの抽出を行った。 その結果,T. thermophilus HB8を宿主とし直径0.5~1.1 mmのturbid plaqueを形成する溶原性のφOH3を分離した。TEM観察の結果、φOH3は長さ約830 nm、幅約8 nmのInoviridae科ウイルスで狭い宿主域を持つことが示唆された。φOH3は50℃~60℃、1時間の熱処理においても90%の生存率を示すなど、高い熱安定性を示した。またp、φOH3はpH3~11の処理後も感染性を示した。さらにφOH3は0.1~0.5 M NaCl存在下でも安定であった。一段増殖曲線からφOH3は60分間の潜伏期間と40分間の放出期間があり、burst sizeは109 PFU/cellであった。 次に、ウイルス感染細胞から核酸を経時的に抽出したところ、φOH3のRF DNAと考えられる二本鎖DNAが感染後50分~80分に検出され、同時にφOH3の一本鎖DNAも感染後50分~80分に検出された。RF DNAは感染後50分程度で形成され、ウイルス粒子の放出期間にもRF DNAは経時的に宿主細胞内で継続的に複製・蓄積される一方、一本鎖DNAはRF DNAに比べ少ない濃度のまま定常的に維持されていた。RF DNAの塩基配列を決定したところ、φOH3のゲノムサイズは5703 bpであり、10個のORFを持つことが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地熱熱水から直接ウイルスゲノムを抽出・精製するために、膜分離システムを用いて濃縮を試みたが、同熱水中に過飽和状態(600 ppm以上)で含有されているシリカが重合し、膜を閉塞してしまい濃縮ができないことが分かった。そこで、濃縮せずにウイルスDNAのPCR増幅を試みたものの、有意な増幅断片は得られなかった。 そこで、地熱熱水を用いた集積培養を経ることでウイルス粒子の回収を検討した。これらの検討で、購入備品であるQIACubeを使うことでのみ、ウイルスDNAの精製が可能であった。特に本研究の重要目的の一つである逆転写酵素などの核酸生合成酵素遺伝子を獲得するには1本鎖核酸をゲノムとして有するウイルスであるInovirusに属するウイルスを分離・精製できたことは有意義な結果であった。特に、Thermus属細菌に感染性を示すInovirus属ウイルスの詳細な解析は、世界初である。また、本ウイルスゲノムが宿主細胞内でRF形態をとることから、本DNAのクローニングが可能であった。そこで、クローニングしたDNAの塩基配列を決定したが、既知の遺伝子と相同性のあるものは殆どなかったことから、本ウイルスゲノムを詳細に検討し、核酸生合成酵素遺伝子を同定することが可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
獲得したφOH3ゲノム上に推定された10個のORFをそれぞれ発現ベクター中にクローニングし、コードされるタンパク質を大腸菌内で発現させる。それら産物の活性、特に、核酸合成酵素活性を有するものを探索する。核酸合成能を示した産物について、一本鎖または二本鎖DNA合成能、逆転写活性能について検討する。 また、他のウイルスDNAの回収を試み、比較ゲノム解析を行う。さらに、ウイルスゲノム上に存在する溶菌酵素や部位特異的組換えに関わる遺伝子を同定し、それぞれ大腸菌で発現させ、熱安定性、pH安定性、耐塩性などの特性評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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