研究概要 |
前年度実施した長崎県小浜温泉排水口沈殿物(75℃、pH 7.2)からのウイルスの探索・単離では、海洋熱水に近い環境下に生息するウイルスの単離が可能であった。今年度は、これに加え、山間地の地熱地帯として、大分県玖珠郡九重町小松地獄を選択し、本地の地熱熱水からのウイルス粒子およびウイルスDNAの探索と単離を行った。 今年度は、昨年度の研究で小浜温泉排水口沈殿物から単離したφOH3以外に、計40種のウイルスを単離し、これらのうち、小浜温泉排水口沈殿物からの単離ファージφOH16、小松地獄地熱熱水からの単離ファージφKJ3, φKJ4, φKJ5について、プラーク形状、電子顕微鏡観察による形態、宿主域、ゲノム構造および推定ORF、宿主内での複製形態、等について性状を解析し、それぞれについて比較・検討した。 その結果、小浜温泉排水口沈殿物から単離したφOH3、φOH16、および、小松地獄地熱熱水から単離したφKJ3, φKJ4, φKJ5はすべて、turbid plaqueを形成する繊維状ファージであり、Inovirus科に分類された。また、φOH3はThermus thermophilus HB8のみを宿主としたが、他のファージはT. thermophilus HB8以外に、Thermus aquaticus YT-1にも感染性を示した。さらに、それぞれのファージのゲノムサイズは、φOH3が5688 bp、φOH16が6733 bp、φKJ4が5651 bp, φKJ5とφKJ3が共に5687 bpであることが分かった。それぞれのファージゲノムを比較したところ、φOH16のみがtransposase遺伝子を持つ以外、他のファージ上のORFはそれぞれ90%以上の高い相同性を示し、単離地域の違いに関わらず、Thermus属繊維状ファージには非常に高い類似性が認められた。
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