研究課題
2つの異なるアルギニン脱炭酸酵素によるポリアミン生成が関与している可能性が期待されたことから,Synechocystis PCC 6803のアルギニン脱炭酸酵素ADC1とADC2を大腸菌においてHisタグ融合タンパク質として発現させた後,精製を行った。両タンパク質ともに,ほぼ生成することができた。両タンパク質の酵素反応活性をすすめたところ,ADC2がADC1よりもより高い活性を示した。また,pH依存性に関しても検討し,ADC1とADC2では1ユニットの差異が検出され,ADC1はpH7付近,ADC2はpH8付近が最適であった。このことは,ADC2が細胞内では主要な酵素活性を示すこととなり,ADC1の意義については未知であるものの,酸性化における適応に関与している可能性が予測された。両酵素遺伝子を不活化したSynechocystisを作成しており,多糖生産にこれらの遺伝子産物がどのように関与するのかを明らかにする。細胞外の多糖は浸透圧に関して影響を受けることがわかった。糖生産を制御する浸透圧を制御するK輸送体に関して調べた。これまでに明らかになっているKtr系以外にKdp系が存在するがその情報は限られていたため, Synechocystis PCC6803のKdpオペロンとその制御因子と考えられるヒスチジンキナーゼとレスポンスレギュレーターの遺伝子を大腸菌にクローン化した。この遺伝子配置は大腸菌とは異なる構成である。この結果,大腸菌でKtr系よりも小さい輸送活性を示すことが明らかとなった。また,この二成分系の破壊株を用いて発現解析を行ったところ,これらは発現制御系と機能していることがわかった。高浸透圧への適応に関して,Ktr系とKdo系は分担しているが,その関与に関しては後者の方が小さいことがわかった。これにより,高浸透圧や塩ストレスへの適応には,Kdp系が補助的な役割をしており,塩ストレスによって誘導されるバイオフィルム形成にいくらかの関与があることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
ポリアミンが増殖フェーズから生産フェーズへの切り替えに関与することを明らかにするために,その合成に関与する遺伝子産物の生産と精製からその酵素活性を明らかにすることができた。ポリアミン合成系が多糖生産を担う因子となる可能性が見いだされていくと期待できる。この結果に基づいて,ADC遺伝子の変異株の作成を行い,多糖合成との関係を明らかにすることができると考えられる。ポリアミンは耐塩性の機能を有すること,成長促進を担うことが報告されており,今後,これらの性質と本多糖合成,細胞増殖から抑制への変換などに関与するかしないかに関して,明らかにする。また,Kは細胞内の主要陽イオンであり,高浸透圧への適応に重要な役割を担うことが考えられる。これまでにまだ機能解明されていないKdpが高浸透圧への関与をしていることを本研究で調べることができた。高浸透圧への適応と増殖速度の変換において,細胞内イオン環境の調節は深くかかわっていることが期待される。Ktr系と比べてK輸送活性が小さいことがわかったが,これはポンプとして機能するとすれば予測される昨日であったとも考えられる。むしろK濃度の低い時にはエネルギーを利用してKを維持するのに必要な可能性が高い。一方,Ktr系の補助的役割として浸透圧調節に関与していることも考えられた。これらの輸送体は浸透圧調節と多糖生産に関与する因子の可能性が明らかになった。今回新たになった結果から多糖に関する生産の評価をおこなう。また,変異株の作成により,本結果の検証と環境ストレスに適応機構の解明が期待できる。増殖抑制による多糖生産への移行機構が着実に明らかになりつつあり,本研究の結果は機構の解明に貢献する。
今回の解析結果からSynechocystis PCC 6803のポリアミン合成系のアルギニンを起点とする経路が明らかとなってきた。また,ポリアミン合成系酵素のうち多糖の細胞外合成をになうポリアミン合成系酵素遺伝子のADC1とADC2の遺伝子変異株の作成により,多糖合成に関与するかそうでないかを明らかにしていくことで,今回明らかになった両酵素のポリアミン合成と多糖生産への関与が明瞭になることが期待できる。さらに,現在観察中である多糖合成された菌とその周囲に付着した多糖成分に関して顕微鏡観察により多糖合成の実体を調べることを行う。共焦点レーザー顕微鏡による観察とSEM画像写真により,ガラス板への接着と細胞同士の接着を調べる。塩ストレスを与えたときと与えない通常状態では,細胞の接着と浮遊の状態変化が観察できることから,細胞間の接合においても明確となることが予測できる。さらに,多糖に関する量に関しても測定することにより,観察される多糖合成との相関性を検討する。多糖合成に関与するポリアミンの種類に関してさらに検討する。これまで,Synechocystis PCC 6803にはスペルミジンが最も高濃度であることが知られているが,私たちの知る限りこの1つの報告しかなく,測定方法によっても変動がある可能性がある。ADCはプトレッシン,スペルミジンおよびスペルミンのすべての合成に影響を与えるのか,バイパス経路によりこれらのポリアミンの合成量は補われるのかに関しても検討する。ADC2はADC1よりも大きな活性があることから,両変異株における多糖の生合成量の比較を行い,活性との関係を調べる。主要ポリアミンを明らかにして,合成系の全容の解明に迫る。ポリアミンは増殖に関与する因子であることが予測されていることから,光合成細菌の増殖と多糖合成は相関にせまる。
ADC1とADC2の生産,精製と酵素活性測定から両遺伝子産物は予測通りの酵素活性が明らかとなった。次に,この2つの不活性化を示すSynechocystis PCC 6803の作成が必要となった。染色体には10個を有するためすべての遺伝子に変異を導入した変異株の獲得とその変異株の解析には時間を有する。また、致死的遺伝においては変異株の取得をめざす。また,電子顕微鏡の形態観察においても資料調整と機械の使用が必要であり,今年度これらの検討を行う。これらの解析を行うとともに,現在明らかになりつつある因子の検討においても次年度にすすめて,塩ストレスによる多糖合成に関して検討する。これは,まだ予備検討の段階であるが,Synechocystisの多糖生産に関与することが明らかとなっていることから,評価をすすめると予定である。Synechocystis PCC 6803の多糖合成菌と多糖成分の顕微鏡観察を行い,多糖合成の実体を調べる。共焦点レーザー顕微鏡観察とSEM観察を行うことにより,菌の多糖合成によるガラス板への接着と細胞間の接着を詳細に調べる。塩ストレス有無において,細胞の接着と浮遊の状態変化が観察する。プトレッシン,スペルミジンおよびスペルミンの検出を行うために,条件を変えた培養と抽出を繰り返し,再現性あるデータの獲得を行う。また,新たに多糖合成に関与することが予測された因子の検出に向けて,HPLCによる検討を行い,両変異株における多糖の生合成量の比較と活性との関係を調べる。これらのために,カラム,合成DNAや反応試薬、プラスミド作成や培地などの試薬を必要とする。
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巻: 7 ページ: 229-328
10.4161/chan.25350