研究課題
ポリアミン生合成系の酵素であるアルギニン脱炭酸酵素の2つの酵素の変異株の多糖形成を共焦点レーザー顕微鏡による観察と菌形成時におけるガラス板への吸着観察をSEM画像写真で検討した。adc1変異株よりも,adc2変異株の方がバよりイオフィルム形成量は大きく,Adc1よりもAdc2が大きな活性を示すことから,アルギニン脱炭酸酵素によって生産されるポリアミンの含量が高いことで,バイオフィルムの形成が抑制されると予想できる。一方,大腸菌から精製したAdc1とAdc2のタンパク質の見かけの分子量が計算値と差があることから,タンパク質の一部が分解されている可能性が考えられた。そこで,タンパク質を酵素分解して生産されたペプチドを分析した。この結果,タンパク質は分解されることなく,全タンパク質として生成されており,見かけの分子量の違いは,電気泳動の差異による移動に過ぎないことが予測された。塩ストレスの反応に関与する2つのK輸送体であるKtrとKdpに関する発現パターンに関して検討した。Naに対抗してKが細胞内へ輸送されて細胞内に蓄積する。また,これらの発現は浸透圧変化が伴う日周期に影響を受ける可能性が示唆された。そこで,両遺伝子の転写物の日周性を調べたところ,両遺伝子ともに日出直前に最高値を示した。このことは,日の出の後,光合成活性が高まる頃にタンパク質としての生産量が最も高くなることを示唆している。これまでの,他の塩ストレスや高浸透圧変化に関わる輸送体の遺伝子発現は,日が暮れた後直後に最高値であったことから,これまでの報告の輸送系の発現とは異なり,光合成との関係が高いことが予想された。
2: おおむね順調に進展している
Adc1とAdc2のタンパク質の見かけの分子量が計算値と差に関しては,タンパク質の一部が分解されていることが考えられたが不明のままであった。今回,タンパク質を大量に精製して分析したところ,正規のタンパク質が生産されていることが明らかとなった。このことは,Adc1とAdc2の酵素活性の差異が,タンパク質の形成における差ではないことが明らかとなった。また,ポリアミンと多糖形成の関係がこれらの結果から明らかとなってきた。ポリアミンが生産されているときは成長が高く菌同士の凝集が抑えられ,光合成化合物は細胞の構築の材料に利用されると考えられる。ポリアミン合成系の遺伝子はAdc1とAdc2の他にも存在すると考えられるが,今回この酵素は直接関与することが明らかとなり,ポリアミンとバイオフィルム形成の関係を探る点で直接関与する因子として利用価値が高いことが分かった。また,塩ストレスおよび浸透圧適応に関与する2つの輸送体に関しては,概日性リズムを持つことが今回明らかとなった。さらに,この遺伝子は早朝に発現量が高くなることから,昼間の活性に関与していることが明らかとなり,生活環における輸送体の役割の一部が明らかとなった。
adc1変異株とadc2変異株の染色体にはそれぞれ薬剤マーカー遺伝子が挿入されている。挿入位置が両遺伝子の翻訳物の不活化となっているかの疑問がある。この疑問を答えるために,変異株の機能相補実験を行うことを計画している。Synechocystis PCC 6803は10個の染色体を有することから,発現量の調節は難しく高発現であると相補できずに,死滅に至る場合も予測される。プロモーターの選定などに関して複数のコンストラクトを試す必要があることが予測される。ADC1およびADC2の多糖合成への関与と細胞増殖の抑制に関わる2つの酵素の関与を二成分系などの検討によって明らかにする。
ラン藻の細胞外多糖形成の合成調節に関与する新規分子を単離して検討を行ったところ,本遺伝子産物である酵素は,予想以外の機能活性を有することが分かった。それを明らかにするためには,市販されていない反応基質が必要であった。合成の専門家にその合成をお願いすることとなった。合成まで数か月を要することとなる。本研究の遂行に酵素藩王を行い,本酵素の本質を見極めることが重要であることから次年度に本実験を行う。
合成基質を用いて単離した酵素分子の特性を調べる。また,作成している本酵素遺伝子の変異株を用いて野生株との比較実験を行うことにより多糖形成の合成調節系機構を解析する。さらに,本酵素遺伝子の近隣に連携する遺伝子も同時に機能解析する。
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J. Bacteriol.
巻: 197 ページ: 676-687
10.1128/JB.02276-14