研究課題/領域番号 |
24658093
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
原 正和 静岡大学, グリーン科学技術研究所, 教授 (10293614)
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キーワード | デハイドリン / 天然変性蛋白質 / アミロイド |
研究概要 |
本研究は、植物からアミロイド様の物性を示すタンパク質を見出し、その凝集メカニズムと生理機能を解明して、生物におけるアミロイドの意義を拡張しようとする試みである。H25は、本研究の中心的な年度である。計画通り、アミロイド候補遺伝子を10種選定したが、そのうち、大腸菌での発現に成功したのは3種であった。そのうち、比較的多量に調製できたAtHIRD11とRsDHNについて、凝集メカニズムとラジカル静止活性を調査した。まず、重金属存在下での二次構造変化を、円二色性、フーリエ変換赤外分光光度計で調査した。結果、意外なことに、植物の推定アミロイド様タンパク質は、重金属の存在下、不定形状態を保ったまま凝集することがわかった。これは、動物のアミロイドが、シート構造を形成しながら凝集することと対照的であった。一方、植物の推定アミロイド様タンパク質は、高いラジカル静止活性を示した。この凝集とラジカル静止との関連を、配列上の特性から解明するため、急きょ、すべてのヒスチジンをアラニンに変化させた変異AtHIRD11タンパク質を作出した。調査の結果、上記の凝集反応とラジカル静止活性がほぼ完全に失われた。これは、AtHIRD11のアミロイド的な性質は、配列中のヒスチジンの存在に依拠することを意味している。アルツハイマー病の原因の一つアミロイドβもまた、凝集にヒスチジンの関与が疑われており、アミロイド様タンパク質の物性変化には、おそらくは、動物と植物間で共通のメカニズムがあることが本研究で初めて推察された。 このように、ヒスチジンが植物アミロイド様タンパク質の特性の鍵になっていることが予想できた。そこで、当初の予定通り、植物アミロイド様タンパク質の特性強化を目指し、ヒスチジン含量を高めたAtHIRD11を高発現させたシロイヌナズナを作出しており、現在、生理的実験に適したホモ化に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物の推定アミロイド様タンパク質は、重金属の存在下、不定形状態を保ったまま凝集するという、これまでの動物で議論されてきたアミロイドの凝集メカニズムとは異なる特性を発見できた。さらに、計画では想定できなかったヒスチジンの関与が見えてきたので、急きょ、ヒスチジンに変異を加えた変異タンパク質を作出し、アミロイド的な特性の抑止を初めてとらえることができた。これらは、想定以上の発展である。一方、10遺伝子すべてをタンパク質として調製しようとしたが、3種のみとなった点が不十分といえる。しかし、タンパク質発現の成功の可否には不確定な要素があり、やむを得なかったとみている。総じて、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度では、当初の計画通り進めることができた。多少意外な展開もあったが、大変興味深い結果が出たとみている。次年度は、基本的に、計画に即して進めたい。現在、植物アミロイド様タンパク質に関し、ヒスチジンの含量を変化させた変異遺伝子を作出し、それを高発現させた植物の育成が最終段階にある。26年度には、その形質転換植物の重金属に対する生理反応を調査し、植物アミロイドの生理的意義を打ち立てたい。
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