研究概要 |
トレハロース誘導獲得抵抗性(TSR)における遺伝子発現レベルの解析から,TSRは,根部のトレハロース処理より数時間後に見られる根組織におけるローカルな反応と,数時間~十数時間後に見られる茎葉部におけるシステミックな応答からなることが明らかとなった.そこで,根部におけるローカル反応について詳細に解析した.マイクロアレイを用いて30分以内に5倍以上誘導される遺伝子を網羅的に解析したところ,220個の遺伝子が同定された.これらのうち転写因子に着目して解析したところ.17個の転写因子が含まれており,その内訳は7個のWRKY,2個のMYB,2個のZAT,2個のCBFの各転写因子とERF,bHLH,RAP2.6,ICE1の各転写因子が各1個であった.これらの発現は処理後30分で最大となるもの,処理後2時間にかけて更に誘導されるもの,処理後2時間でほぼ一定のもの3種類のパターンが見られた.特に処理後30分で最大となる遺伝子は,TSR応答のマスター転写因子である可能性が高いことから,今後詳細な解析が必要である.次に,トレハロース処理時に根部で生成される移動性シグナルについて解析した.トレハロース処理後経時的に根組織を回収し,メタノール/酢酸抽出後のサンプルをUPLC-MS/MSにより解析した.その結果,トレハロース処理後1-2時間で,ジャスモン酸(JA),ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile),アブシジン酸(ABA)のレベルが急激に上昇することが明らかとなった.この上昇は,処理後2時間以降は速やかに消失した.このことからTSRの1次的なシグナルとしてJAあるいはABAが関与していることが示唆された.興味あることにJAやABA生合成遺伝子は短時間のトレハロース処理では誘導されず,もっと生合成を伴わないレベルの上昇,例えば配糖体等不活化体からの活性化が起こっているのではないかと推定された.
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