研究課題/領域番号 |
24658106
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山田 小須弥 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70292521)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
植物が光の方向に屈曲・運動する"光屈性"は、植物の環境応答反応の代表的な生物機能である。この現象のメカニズムとして、植物が光屈性刺激(横方向からの青色光照射)を感受すると植物成長ホルモン・オーキシンが光側から影側組織へ横移動することで偏差成長が生じ、影側組織の成長が促進された結果、屈曲が起きるという説(1937 年)が古くから提唱されてきた。しかし近年の研究から光屈性の誘導にはオーキシンだけでなく、光側組織で新たに生成した成長抑制物質も関与していることが明らかになった。さらに、様々な実験植物から成長抑制物質が単離・同定された。興味深いことに、それらの成長抑制物質候補の多くは植物固有なファイトアレキシンとして機能する物質であることが明らかになった。この成長抑制物質の生理作用として、オーキシン作用の抑制、ならびにcell wall stiffnessと呼ばれる細胞壁の一時的な硬直化が知られている。今年度はトウモロコシの幼葉鞘切片を材料に、トウモロコシ由来の光誘導性成長抑制物質であるDIMBOAならびにMBOA、さらには類縁体のDIM2BOAを用いて、オーキシン誘導性のトウモロコシ幼葉鞘切片の伸長に及ぼす影響、さらに光屈性に関与すると考えられているZmSAUR遺伝子の転写レベルに及ぼす効果を検討した。その結果、DIMBOAならびにMBOAはオーキシン誘導性の伸長促進作用を濃度依存的に抑制したが、類縁体のDIM2BOAにおいては顕著化抑制作用は認められなかった。一方、オーキシンによって誘導されたZmSAUR2遺伝子の転写レベルはDIMBOAならびにMBOAを同時に投与することで抑制された。なお、類縁体のDIM2BOAにおいては顕著な変化が認められなかったが、次年度に再度条件を設定し、効果の有無について検討することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の実験で用いたトウモロコシ由来の光誘導性成長抑制物質であるDIMBOAを当初、海外の薬品会社から購入予定であったが、納期が確定できない(数か月~半年)、あるいはカタログに掲載されているが取扱いがされていない等のトラブルが発生した。結局、市販品を購入することを断念し、大量のトウモロコシ芽生えから精製することとなった。しかし、普段研究に使用しているトウモロコシ芽生えを用いて、報告されているDIMBOAの精製方法に従って精製してみた結果、トウモロコシ品種に起因する類縁体の混入が認められ、最適な品種を探すのに手間取った。こういったトラブルが重なり、予定通りに研究が進まなかった。さらに、マイクロアレイ解析では、シロイヌナズナ芽生えに青色光照射あるいはエリシター処理を行った植物サンプルを用いる予定であったが、最適な処理方法の確立に時間がかかり、今年度の実施は断念し、改めて適切な条件を検討したうえで次年度に実施することとした。
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今後の研究の推進方策 |
トウモロコシ由来の光誘導性成長抑制物質であるDIMBOAに関しては、従来のスイートコーン系からデントコーン系に品種を変更することで上述のトラブルは解消できる目途がついた。また、マイクロアレイ解析では、シロイヌナズナ芽生えに処理する青色光のエネルギー量について、適当な遺伝子の発現レベルをマーカーに再度詳細に検討する。またエリシター処理についても過去に類似した実験を行った経験のある研究室から実験条件・方法等を教授していただき、至適条件を再検討した後に実施する予定である。従来から実施予定の次年度の実験計画については、マイクロアレイ解析結果を待たずに実施可能な内容については先に並行して行い、マイクロアレイ解析が完了次第、残りの実験についても着手する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は下記の実験実施の為に研究費を使用する予定である。 シロイヌナズナ芽生えに処理する青色光(青色LED を使用)のエネルギー量、エリシター(病原菌もしくは細胞壁分解成分)濃度や投与方法、さらに植物体のサンプリング時間等の条件検討を行う。評価の指標として下記に示す各応答反応に特異的な遺伝子発現およびミロシナーゼ-グルコシノレート・システムのアグリコンの内生量を用いる。1)ミロシナーゼ遺伝子の転写レベル(RT-PCR で確認)、2)ファイトアレキシン(この場合、光誘導性成長抑制物質と同義)であるイソチオシアネート類の生成確認(GC-MS あるいはLC-MS で解析) マイクロアレイ実験先に決定した条件に基づいてシロイヌナズナ芽生え(暗所で培養した黄化芽生え、もしくは弱光下で培養した芽生えを使用)に各種刺激を与え、一定時間後にサンプリングを行う。各芽生えから調製したtotal RNA を用いてマイクロアレイ解析を行う。アレイ(オリゴDNA)は既製品(Agilent 社、Arabidopsis シリーズ)を用い、RNA の純度チェック・反応条件等はメーカー推奨のキットを使用し、専門業者に解析を依頼する。マイクロアレイ実験により得られた遺伝子の発現プロファイルデータについて、専用解析ソフトを用いて比較・検討する。未処理区と比較して、エリシター処理のみならず、青色光にも応答して発現が上昇あるいは減少する遺伝子を絞り込む。また、理化学研究所から公開されているシロイヌナズナによる植物の成長と環境応答に関する遺伝子発現パターンおよびメタボローム解析データベース(ミロシナーゼ-グルコシノレート・システム)も活用して更なる絞り込みを行う。
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