グルタチオン抱合体形成(グルタチオン化)は、生物が有する代謝メカニズムの一種であり、低分子化合物を抱合形成により修飾する反応である。グルタチオン抱合体を形成する低分子化合物のうち、アブラナ科植物に含まれるイソチオシアネート化合物は、イソチオシアネート基 (N=C=S) の炭素原子の電子不足からチオール化合物(システインやグルタチオンなど)による抱合反応を受けやすい。本研究では、キャベツから単離されたイソチオシアネート化合物イベリンを用い、グルタチオンおよびタンパク質チオール基との反応性について詳細に検討した。 HEK293細胞にTLR遺伝子およびレポーター遺伝子を導入することで安定発現株を作製し、レポーターアッセイ系を確立し、さらにTLRシグナル経路を抑制する野菜抽出物および活性物質のスクリーニングおよび構造解析を行った結果、キャベツ酢酸エチル抽出物よりイソチオシアネート化合物イベリンを同定した。イベリンとチオール化合物との反応性についての解析を行ったところ、イベリンとN-アセチルシステイン (NAC) との反応により新たなピークが生成することが確認され、LC-MS分析の結果から、保持時間26分付近のピークがイベリンとNACの反応物であることが示唆された。しかしながら、NACとイベリンの分子量が同一であったため、解析が困難であった。そこで、NACの代わりにグルタチオンをイベリンと反応させ、LC-MS分析を行った結果、イベリンとGSHの反応物と思われるピークが検出され、イベリンはチオール化合物と抱合体を形成することが確認された。さらに、イベリンのチオール抱合体についてTLRシグナリングに与える影響を調べたが、抱合体形成によりイベリンの抗炎症性は完全に消失していることが明らかになった。
|