研究課題/領域番号 |
24658133
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大手 信人 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10233199)
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研究分担者 |
徳地 直子 京都大学, 学内共同利用施設等, 教授 (60237071)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 森林生態・保護・保全 / 窒素循環 / 総硝化量 / NO3- / 安定同位体比 |
研究概要 |
森林生態系では、硝酸(NO3-)態窒素は植物や微生物にとっての可吸性が高く、これを中心に内部での循環が発達している。土壌中でのNO3-の現存量(プール)の消長には微生物による生成、大気降下物による流入、植物や微生物による吸収、水移動に伴う溶脱が関わる。従来からの培養実験では求められなかった総硝化速度(生成速度)を、NO3-の酸素安定同位体の自然存在比(δ18O)の変化から推定する方法を提案することを目的とする。大気降下物由来NO3-のδ18Oは、土壌中で生成されるNO3-のそれより著しく高く、これをトレーサとしてモニターすることによって循環の速さを推定することができる。本年度は、滋賀県南部の田上山地に位置する京都大学桐生水文試験地、東京都中部の東京大学附属田無演習林に調査地を設け、土壌、土壌水等、試料の定期的な採取を行った。大気降下物としてのNO3-のインプットは前者に比べて後者で著しく高く、土壌溶液中のNO3-濃度が常に前者の数倍~数10倍あることがこれまでの調査で明らかになっている。この2つの異なる条件下で、本方法を適用し、方法の妥当性を検証しつつ、総硝化量の推定に必要なデータの収集をおこなった。 この結果、桐生と田無の両方で、NO3-のδ18Oは土壌中で低下し、降水で供給されたNO3-が、土壌中で不動化され、新たに硝化菌によって生成されたNO3-に置き換わっていることが明らかになった。また、桐生の土壌中では深さ50cmまでの間でNO3-のδ18Oは緩やかに低下するのに対し、田無の土壌では、A0層近くの浅い部位でδ18Oが急激に低下することがわかった。このことは、土壌中でのNO3-の鉛直輸送の相違が影響していると考えられ、上記の浸透過程における土壌の物理特性の違いを把握する必要があることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画において設定した野外実験サイトにおける試料の採取やそれらの分析は計画通りに進んでいる。上記に示したように、二つのサイトにおける大気降下物由来のNO3-の取り込みの状況に相違が見られ、土壌中における微生物による窒素形態変化に土壌の物理性が強く影響していることが示唆され、今後の研究展開に新たな側面が開ける可能性が見えてきた。 また、両サイトにおける表層土壌における総硝化速度を、15Nトレーサーを用いたプール・ダイリューションメソッドを用いて測定を開始した。これによる測定は、現在同位体分析等を進めているが、プレリミナリーには、次のようなことが明らかになってきた。2012年8月のデータでは、窒素の降下物量が少ない桐生では、有機態窒素の無機化の結果生成されるNH4+は、ほぼ全量不動化され、ほとんど硝化されないのに対し、田無では生成されたNH4+の半分以上が硝化され、また、NO3-の不動化量は総硝化量を下回った。このことは、桐生で、通常土壌中のNO3-のプールがわずかであるのに対し、田無では土壌溶液のNO3-濃度が極めて高いことと対応している。 以上のように、フィールでのデータ収集と、実験室における総硝化量推定の測定は順調に進んでおり、2つのサイトのメカニズムの相違に関しては当初予想しなかった知見も得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に開始した野外観測は平成26年度まで継続し、データセットを作成する。 1)15Nプール希釈法による総硝化量の推定(平成25年度)/ データセットを整理した上で、上記のδ18O-NO3-の測定値とマスバランスから求められる総硝化量と不動化量の確からしさを検証するため、平成24年度から開始した、15Nプール希釈法による推定を実施する。この方法では、原位置で採取した土壌に、実験室において15Nでラベルを施した15NH4+を添加し、数日間の培養を行う。これによって添加した15NH4+の減少と15NO3-の増加量を測定し、総硝化速度を計算する。これによって得られる値と、原位置のδ18O-NO3-から求められる総硝化量を比較し、推定値の妥当性を確認する。この手法は季節ごとに適用し、硝化活性の季節性を把握する。15Nプール希釈法では、総無機化速度(アンモニア生成速度)も推定できるので、この値も参照する。 2)水移動に伴うNO3-の鉛直方向の溶脱の効果の検討(平成26年度)/ 土壌中の雨水の鉛直浸透に伴うNO3-の移 動を考慮するため、まず、コンパートメントモデルを作成し、飽和-不飽和浸透理論に基づいた数値計算モデルで鉛直一次元の水移動を計算する。モデルは申請者の研究室で現有のコードを用いる。入力データとしては、測定されている林内雨量を用いる。この水移動に従い、NO3-イオンが流下すると仮定し、マスバランスの計算を下層方向に拡張する。これによって、NO3-濃度、安定同位体比の鉛直プロファイルをシミュレートし、同位体比の鉛直分布の形成における水移動による溶脱の効果を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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