研究課題
森林生態系では、硝酸態窒素(NO3-)は植物や微生物にとっての可給性が高く、これを中心とした土壌−植物系の内部循環が発達している。土壌中でのNO3-の現存量の増減には、大気降下物などの外部からの流入、微生物による生成、植物や微生物による消費、水移動にともなう溶脱が関わっている。本研究は、従来から行われてきた培養実験では求められなかった総硝化速度(NO3-生成速度)をNO3-の酸素安定同位体比(δ18O)の変化から推定する手法を提案することを目的として、野外観測データの収集と解析を進めてきた。大気降下物由来のNO3-のδ18Oは、土壌中で微生物によって生成されるNO3-のそれよりも著しく高く、これをトレーサーとしてモニターすることによって循環の速さを推定することができる。本年度は、東京都中部の東京大学附属田無演習林の調査地において引き続き土壌、土壌水、地下水等、試料の採取を前年度までに行った観測の補足的に行い、現存量の測定、無機化速度、硝化速度の測定を行った。また、水試料中の溶存NO3-について、微生物脱窒菌法を用いたδ15N、δ18Oの測定を行った。2012年度から、3年間の野外観測の結果、比較対象としてきた滋賀県南部の桐生試験地と田無演習林の両方で、NO3-のδ18Oは土壌中で急激に低下し、大気降下物として流入したNO3-は素早く微生物によって不動化され、新たに硝化細菌によって生成されたNO3-に置き換わっていることが判明した。桐生試験地の土壌ではこの置き換わりによるδ18Oの低下が、土壌50cm深までで生じるのに対し、田無演習林の土壌ではリター層で急激に生じているという違いが認められた。同位体希釈法を用いた総硝化速度の測定結果は、桐生に比べて田無の土壌でそれが著しく大きいことを示しており、微生物活性の相違の方がこれに強く影響していることが示唆された。
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