研究課題/領域番号 |
24658137
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
阪上 宏樹 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40604822)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオインサイジング / ピットイーター / 微生物 / 腐朽 / スギ / 赤心 / 黒心 |
研究概要 |
本研究では微生物を意図的に操作し、直接ピット(壁孔)に孔をあけるバイオインサイジング技術に着目し、スギ心材のピットに限定して、最も効果の期待できる微生物を発見し、その最適処理法の検討とその効果を評価することである。平成24年度はこの目的に対してスギに生育する微生物を出来る限り多く日本中から入手した。入手先はスギ人工林では、沖縄県国頭村、九州では福岡県篠栗町、大分県日田市、本州では千葉県八街市、富山県立山市、北海道からは羽幌町から天然林では鹿児島県屋久島町からそれぞれスギの落枝を採取し、落枝内部に存在する微生物を分離し培養した。また、沖縄県と北海道は本来スギが自生していないため、スギの心材試験片、黒心および赤心を半年間設置した後回収し、同様にサンプル内部に存在する微生物を分離し、培養した。 培養した微生物をDNAにて同定した結果、同定できた微生物は61種類、同定できなかった微生物は7種類だった。同定できた微生物をタイプ毎に分類すると木材腐朽菌6種類、変色菌14種類、その他腐生菌41種類に分類できた。これらの中でも木材腐朽菌と変色菌はピットを破壊出来る可能性が高く、次年度以降、実際にスギサンプルに接種試験を行い、その効果を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的に対して、平成24年度では1.九州大学宮崎演習林、福岡演習林を始め、日本各地のスギ林を訪問し、林分内に放置されたスギの林地残材に発生する微生物、および心材腐朽菌を採取し、腐朽菌相を調査し、2.九州大学演習林(宮崎、福岡、北海道)を中心として各地域にスギ赤心材と黒心材をトラップとして設置し、後日腐朽した材を回収し、微生物を採取し、心材を腐朽させる微生物を探索する。3.得られた微生物は分離培養し、以下のグループ群に分けて選別を行うことを目的とした。その結果、1. については本州四国でのサンプル採取が出来なかったが、それ以外の地域を訪問し、サンプルを採取することが出来た。2については九州大学福岡、宮崎演習林についてはサンプルを設置していないが、琉球大学与那フィールドおよび、九州大学北海道演習林にはサンプルを設置し、微生物を獲ることができた。3.についても採取した微生物を分類することが出来たため、ほぼ計画通り、研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、平成24年度に選別し、分離・培養した微生物を対象に、スギ心材抽出成分下で生育可能かどうかを検証する。具体的には、冷水、温水および有機溶媒でスギ心材から抽出した抽出成分を添加した固形培地および液体培地を使用し、平成24年度に選別した微生物を人工培養し、生育するコロニーの直径を経時的に測定し、生育速度を求め、生育の良い微生物を選別し、順位付けを行う。次にスギ抽出成分下で生育出来、成長速度を順位付けした高順位の微生物を対象として、スギ心材に接種試験を行い、一定期間培養後、ピット破壊の有無および微生物の形態・成長速度等を顕微鏡で観察し、培養期間と進入効果との関係を明らかにし、実用可能性を検討する。他の微生物による影響を考慮して予めオートクレーブで殺菌処理したスギ心材とコントロール用として滅菌処理しないスギ心材を対象に候補となる微生物の接種試験を行う。木材腐朽菌の培養は米ぬかふすま培地およびmalt 液体培地とし、それぞれの微生物に対して最適処理温度で培養する。接種方法は米ぬかふすま培地およびmalt 液体培地で培養した菌糸塊をグラインダーで粉砕したサスペンジョンを木材に減圧注入する方法で行う。基材となる心材は通常の材とインサイジング処理材を使用し、培養後、顕微鏡観察および重量変化率から評価を行う。木材への微生物の進入機構、およびピットへの影響は解剖学的手法を用いて行う。マクロレベルでの進入の程度は実体顕微鏡および切片作成による光学顕微鏡で明らかにする。微細レベルでの進入機構の解明には共焦点レーザー顕微鏡と電子顕微鏡を使用する。ピットの破壊形態はより分解能の高い電子顕微鏡を利用して観察を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は微生物の培養、および顕微鏡観察に必要な消耗品の購入に使用する。旅費は可能な限り全国から微生物を採取するため、および最終成果を学会で発表するために使用する。
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