近年,育種学,遺伝学および生態学の分野で広く用いられているDNAマーカーの中で,最も変異性(多様性)に富み,高い遺伝情報量を有するマイクロサテライト(以下,MS)マーカーの新規開発法を構築した。次世代シーケンサーの特性を活用することにより,従来法で膨大な作業と大きな経費を要していたMS領域のDNA断片のクローニングと塩基配列情報の取得を,簡便・安価に行うことが可能となった。その概要は次の通りである。 1.RSE-PCR(Restriction Site Extension PCR)法とアダプター付加法との比較検討:RSE-PCRによるMS領域のエンリッチメントについて検討を行い,4種類の制限酵素を用いた分析系を構築した。また,5制限酵素を用いたアダプター付加法による系を構築し,両者を比較した結果,RSE-PCR法は簡便性では若干優れていたが,再現性ではアダプター付加法の方が明らかに優れていたことから,アダプター付加法を採用した。 2. モデルDNAによるMSマーカー作出プロトコールの確立:DNA配列中に5種類の4塩基繰返し配列((CAAA)n,(CATA) n,(GAAA)n,(GATA)n,(GACA)n)と2種類の2塩基繰返し配列((CA)n,(GA)n)を組み込んだモデルDNAを作成し,アダプター付加法におけるエンリッチメント等のPCR条件を詳細に検討した。その結果,4塩基繰返しMSを選択的に増幅するPCR条件を確定した 3. スギおよびクロマツにおけるMSライブラリーの構築:上記方法を用いて,スギとクロマツにおいて4塩基繰返しMSライブラリーを作成した。 4.従来法と新規法の比較:新規法と従来法でのマーカー開発の効率等を評価するため,マツ属の2樹種において従来法による4塩基繰返しMSマーカーの開発を行った。従来法で開発されたマーカー数は,わずか12~13個であった。
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