イソプレンはコナラの葉面で生産・放出され、林外に拡散している。このイソプレンの大気中寿命は短く、バックグランド濃度も非常に低いことから、イソプレンはコナラ林の大気の拡散過程を評価するためのトレーサーとなりうる。本研究はこの特徴に注目し、イソプレンの3次元空間分布特性と複数地点における濃度の時系列変動特性の違いを抽出する観測システムを開発し、イソプレンの森林周辺域への拡散過程を評価した。はじめにイソプレンの広域的な空間分布を評価するため、森林に挟まれた盆地を横断する4~6kmの測線を3本設定し、車両で移動しながら日中のイソプレン濃度を多点観測した。その結果、林縁から500mまでの範囲のイソプレンの濃度勾配が顕著であることを確認した。次に3次元的なイソプレンの濃度分布特性を評価するため、直径約1.5mの気球に外径3mm、内径2mmのテフロンチューブを接続し、林内と林縁から500mの範囲内の複数地点で地表1mと20m高における大気採取を行った。これらの大気サンプルを分析した結果、林内では20m高の濃度が高く、林縁から林外に離れると1m高のイソプレン濃度の方が高くなる傾向がある可能性を示した。さらに、時系列変動特性を評価するために、林外と林内で新たに開発した自動観測システムを用い、24時間の連続観測を行った結果、林内では正午前後に、林外では朝夕にイソプレン濃度のピークが存在することを示した。これらは、大気安定時に森林の大気が地表付近を流下している現象を示すデータとしての可能性が考えられることから、今後さらにこのイソプレンの特徴を活かして研究を進めていくことが重要と考えられた。
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