研究概要 |
森林炭素動態の精密化のため、土壌および土壌への有機物供給源としての葉と細根の安定炭素同位体比および微量元素を指標を使って、土壌有機物の分解・堆積過程を解析した。土壌への有機物供給源の葉および根の抽出成分(エタノール抽出分、アルベン抽出分、クラソンリグニン、ヘキサン抽出分、脱脂粉分、セルロース、熱水抽出分)の炭素同位体比と土壌深度別炭素同位体比を比較検討した結果、リグニンの炭素同位体比が土壌の炭素同位体比に近いという予想に反して、リグニンの炭素同位体比は葉および根とも、バルク(全体)および表層土壌の炭素同位体比より低い値を示した。このことは、土壌有機物形成に寄与する割合が高い物質は、難分解性のリグニンではなく、セルロースおよび熱水抽出物であることを示唆していた。また、土壌深さ毎の微量元素の解析から、リター等の有機物影響が大きい土壌元素としてCa,S,P,Cu,Zn,Mnが認められ、これらは土壌有機物分解の指標となりうること、さらに、土壌が深くなるにつれ、土壌有機物に占める微生物遺体の存在役割が大きくなることが示唆された。特に、安定炭素同位体比から推測されるリグニンの挙動から、地表面と土壌中では、全く異なる分解過程を持つこと、つまり、リター中のリグニンは腐朽菌でほとんどが分解される一方、糖やセルロースなどの易分解性物質が土壌腐植の構成成分として取り込まれることを強く示唆していた。さらに、それらが微生物により分解されるとともに、微生物自体の遺体が最終的に土壌有機物として残る分解・堆積モデルの基礎になるデータを得ることができた。
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