熱帯雨林は多種多様な樹木によって支えられ、樹木それぞれのガス交換の総和として、森林の炭素・水交換機能が維持されているが、エルニーニョ現象のような、非周期的な環境変動に対して、樹木個々がどのように応答し、樹冠レベルでの安定性が維持されているのかは詳細な理解に至っていない。年輪を持たない熱帯樹木において同位体比変動を解析するために、樹木円盤サンプルから切片を採取し、セルロース抽出を行い、ほぼ等間隔に切り出した。切り出す際には、一点一点デジタル写真撮影をして切り出した範囲を解析できるようにした。切り出した木部炭素・酸素安定同位体比を分析したところ、生育環境の乾燥・湿潤および雨の同位体比変動に起因する炭素・酸素安定同位体比の変動が捉えられた。微気象データおよび同位体分別モデルを用いた解析により、Pasoh熱帯雨林においては雨の同位体比変動に応じて木部酸素安定同位体比が年2回の弱いピークを持つことを明らかにし、木部形成年代を推定することを試みたが、変動が小さく不規則であり、特定が困難であったため、炭素安定同位体比や放射性炭素年代測定など他の手法を組み合わせた年代推定法を複数検討した。当初計画により予定していた酸素安定同位体による材の形成時期の季節レベルでの推定は季節変化に乏しい半島マレーシアの樹木では困難であったが、複数の手法を組み合わせることにより、数年程度の単位で訪れる乾季などを検出し、その時の水利用効率等を推定することは可能となった。今後、他の気候帯の樹木などと比較することにより、樹木の環境応答特性の気候や樹種による違いを明らかにすることができるであろう。
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