研究課題/領域番号 |
24658155
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
近藤 隆一郎 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任教授 (80091370)
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キーワード | マツタケ / 人工栽培 / 菌根菌 / アミノ酸 / 菌糸体 |
研究概要 |
前年度に行ったFe源およびN源の、マツタケ菌糸体(菌叢)形態変化に対する影響を、菌体乾燥重量および菌叢直径を計測し、定量的なデータと、定性的な菌叢形態とを関連づけた考察を試みた。 N源では、無機態のN源として酒石酸アンモニウムを用い、有機態のN源として、L-アルギニン単独、およびグリシン、L-アルギニン、L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-セリン、L-バリンから構成される4パターンのアミノ酸混合組成を用いて検討を行った。菌叢直径、菌体乾燥重量共にアミノ酸混合組成が、無機態、L-アルギニン単独に比べて有意に高い値を示した。アミノ酸混合組成間で比較すると、グリシン、L-アラニン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-セリン、L-バリンの混合組成が良好な傾向を示したが、L-アルギニンおよびL-セリンの二種混合組成と差異は無かった。 Fe源は、二価のFeイオンおよび三価のFeイオンを用い、種々の濃度で検討を行った。三価のFe源を用いた場合には、300μM以上の濃度において菌叢が肥厚し、気中菌糸は濃度依存的に旺盛に形成された。菌体乾燥重量および菌叢直径は、Fe源の種類、濃度に依らず統計的な有意差が得られなかった。 上述のような菌叢形態の変化を、分子レベルで考察する試みとして、Znイオンの有無により生じた異なる菌叢形態を有する菌糸体の、網羅的代謝物解析(メタボロミクス)に取り組んだ。前年度までは、菌糸体からの全代謝物(メタボローム)の取得を試みたが成果が得られなかった。本年度、HPLC-PDAを用いた分析に十分なメタボローム濃度を得ることができた。異なる菌叢形態の各菌糸体より得られた代謝物プロファイルを比較すると、各菌糸体に特異的な代謝物の存在が示唆された。現在質量分析計を用いた、各代謝物の同定に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
菌糸体形態変化誘導物質(MIS)の検討については、当初予定していた検討についてほぼ達成でき、新たな知見を得ることができた。この知見を元に、子実体原基誘導への展開を予定している。 菌根特異的な代謝物の探索に関連した研究では、ゲル培地系におけるアカマツ、マツタケ共培養系を安定的に作出できず、検討が滞っている。アカマツ無菌実生の発芽率の悪さと、発芽時期の不均一性も問題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度において、菌叢形態の変化を、分子レベルで考察する試みとして、Znの有無により生じた異なる菌叢形態を有する菌糸体の、網羅的代謝物解析(メタボロミクス)に取り組んだ。その結果、異なる菌叢形態の各菌糸体より得られた代謝物プロファイルを比較すると、各菌糸体に特異的な代謝物の存在が示唆された。この特異的な代謝物を同定することにより、菌叢形態の変化を、分子レベルで解明することが可能となる。 菌叢形態の変化は、種々の培地条件あるいは、物理的条件の違いにより、認められる。この形態変化をメタボロミクスの手法を駆使することにより、子実体原基誘導要因の解明に展開できるものと考えている。このような分子レベルでの解明により、マツタケの人工栽培技術の開発に展開できよう。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度より、「新規培養法によるマツタケ人工栽培技術の開発」に取り組んでいる。25年度は、マツタケ菌叢形態の変化を,分子レベルで解明する試みに重点的に取り組んだ。当初、物品費・旅費のほかに人件費・謝金を計上していたが、研究代表者により、菌糸体の網羅的代謝物解析(メタボロミクス)の分析条件が明らかにされ、研究補助員の雇用に伴う人件費の支出が必要なくなった。 平成24から25年度に得られた成果に基づき、26年度においても引き続き本課題について研究の継続を予定している。マツタケ菌叢形態の変化を,分子レベルで解明する方向性が見出されたことから、その知見に基づき人工栽培技術の可能性を探る。さらには、アカマツ苗木へのマツタケ菌糸の感染系の構築を目指すことから、未使用額は、物品費としての支出を予定している。
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