研究課題/領域番号 |
24658160
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
西村 健 独立行政法人森林総合研究所, 木材改質研究領域, 主任研究員 (10353799)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオマス / キノコ / 子実体形成 / シグナル分子 / 化学合成 |
研究概要 |
キノコの子実体形成機構は今なお未解明の課題である。光、温度、栄養不足などの環境ストレスはキノコの子実体形成を促進することが知られているが、自然界からホルモン様のシグナル分子は未だ単離されていない。本研究では、これまでにヒラタケに対する子実体形成活性の確認されている化学合成物質であるショ糖エステル、トリテルペン配糖体、3-O-アルキルグルコースの共通構造(親水性の糖に疎水性moietyが結合)をヒントに、構造のデザインされた出来るだけ多くの候補化合物からなる糖脂質ハイブリッド分子のケミカルライブラリーを構築し、構造-活性相関の把握と絞り込みにより、劇的なキノコ形成能を持つ活性物質の創出を目的とする。そして自然界でキノコ形成に働く真のシグナル分子を究明する手掛かり得る事が究極のねらいである。 当該年度は、キノコ形成能の向上をねらい、酵素法もしくは純有機化学的手法による3-O-アルキルグルコース糖部分のオリゴ糖化を検討した。酵素法については、発色団p-ニトロフェニル基をアグリコンに持つ基質モデル化合物を用いた予備実験の結果、糖3位水酸基のペンダントはセルラーゼの基質認識を阻害するものと示唆された。一方、純有機化学的手法による糖部分の伸長について、セロオリゴ糖合成のキー中間体でβ-1,4結合の構築に極めて有用な単糖ユニットであるアリル 3-O-ベンジル-2,6-ジ-O-ピバロイル-4-O-p-メトキシベンジル-β-D-グルコシドをグラムスケールで合成した。さらにアシル基の可変部を持つグリセロ糖脂質アナログも候補に選び、その中間体1,2-ジ-O-(3-O-β-D-グルコピラノシル)-グリセロールならびに1,2-ジ-O-(3-O-β-D-セロビオシル)-グリセロールを合成した。またキノコ形成活性未知の複合糖質である市販のグルコシルセラミドもライブラリーに加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた糖のエノール化によるグルコース残基のマンノースへの変換は手つかずであったが、セロオリゴ糖合成のキー中間体およびグリセロ糖脂質中間体を合成した。3年間の全体の計画の中で化学合成による候補化合物のライブラリーの構築は最初の2年間に位置づけており、初年度はスタートアップの年であることを考慮すると、進捗状況は想定の範囲内にあり、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
糖のエノール化及び酵素法については試行的な部分もあり、うまくいきそうにない場合は深入りせず、純有機化学的手法をメインに合成研究をすすめる(糖鎖伸長は段階的縮合法により単糖ユニットを逐次連結し、位置選択的に疎水性基を導入)。次年度はヒラタケを用いた生物検定を計画しており、得られた糖脂質ハイブリッド分子について、① 糖鎖長さ、② 疎水基(アルキル基)長さ、③ 疎水基の導入位置と数に留意し、子実体活の有無と構造‐活性相関を把握する。ライブラリーを拡充する目的で、グリセロ糖脂質の他に、比較的合成の容易な糖脂質アナログもターゲットに加え、入手可能な市販品も適宜活用する。出来るだけ多くの候補化合物の中から、従来にない劇的なキノコ形成活性(マイクロ~ナノモルオーダーの添加濃度で活性発現)を持つ物質を探索する可能性を高めていく。少量のサンプルの生物検定にはペーパーディスク法を用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度は、研究費のムダのない効率的な使用を心がけ、予定していた実験の一部には次年度に繰り越したものもあり、次年度使用額(B-A)156773円が生じたものと思われる。これに次年度請求する研究費1000000円と合わせた使用計画は下記のとおりである。 成果発表・情報収集を国内外の学会で行うために、EuroCarb17(第17回ヨーロッパ糖質会議、7月イスラエルで開催、既に発表要旨アクセプト)の外国旅費35万円、国内学会旅費(日本糖質学会、日本農芸化学会)10万円、これら学会への参加登録費10万円、有機合成実験やキノコを使った微生物実験に必要な消耗品費(試薬、ガラス類)40万円、実験補助の為の人件費(1人X2ケ月)10万円、研究成果投稿料と印刷費10万円程を計画している。
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