リグニンはセルロースに次ぐ莫大なバイオマス資源の一つであるが、難分解性の複雑な構造をもつ芳香族高分子であるため、効率的に利用することが難しい。白色腐朽菌は、リグニンを常温常圧で、効率的に分解資化する能力を持ち、そのメカニズムを解明することで、リグニンの有効な利用法を開発できる。白色腐朽菌の菌体構造は、菌糸と菌糸外にある菌糸鞘と呼ばれるゲル状物質との混成体である。菌糸鞘は、以前から菌体外酵素の保持輸送の場としての重要性が指摘されてきたが、具体的な機能については明らかになっていなかった。本課題では、リグニン分解の反応場の可能性がある菌糸鞘のリグニン分解バイオリアクターとしての機能解明を行った。第一に、酵素活性染色法を利用した組織観察によって、菌糸鞘内部でリグニン分解酵素の反応が生じることを明らかにした。白色腐朽菌Phanerochaete crassa WD1694菌株を、リグニン分解条件と非リグニン分解条件下で液体しんとう培養し、リグニン分解酵素活性と菌糸鞘の分布を組織化学的に解析した。リグニン分解条件下では、培養後2-3日目に菌糸先端部にペルオキシダーゼ活性染色としてリグニン分解酵素の反応が認められ、培養3-4日目には菌糸鞘内部でもペルオキシダーゼ活性染色が認められた。第二に、菌糸鞘内部で作用するリグニン分解酵素がマンガンペルオキシダーゼ酵素であることを特定した。また、Phanerochaete crassa WD1694菌株のマンガンペルオキシダーゼ遺伝子配列を決定し、その構造を分析した。菌糸鞘内部で反応を生じたマンガンペルオキシダーゼ酵素タンパク質のN末端アミノ酸配列は、マンガンペルオキシダーゼ遺伝子の配列の一つと一致した。以上の結果より、菌糸鞘内部でマンガンペルオキシダーゼを主体としたリグニン分解酵素の反応が生じることを明らかにした。
|