公共建築物の木造化が推進されるなか、外構用木材の需要が増えており、耐久性付与技術のさらなる向上が求められている。本研究では、これまで不明点が多かった保存処理材中の薬剤固着や薬剤溶脱の挙動を詳細に解明するための分析技術の確立を試みた。すなわち、主要な保存剤の一つであるアミン銅で処理された木材を対象に、ナノスケール解析が可能な超高分解能電子顕微鏡技術を導入して、細胞壁内に取り込まれた“銅”の直接可視化をおこなった。 その結果、細胞壁内における銅の化学構造をナノスケールで直接可視化して性状(単原子orクラスター等)を明らかにするには、以下の3つの克服すべき技術課題が存在することを明らかにした。すなわち、①細胞壁を解析プローブである電子線やX線が十分に透過し得る10nm厚程度まで薄膜化する技術、②薄膜化の過程で起こる試料のダメージや汚染を原子レベルで防ぐ技術、③原子分解能を有しつつ木材組織にダメージを与えにくい観察・分析技術、の3つである。このうち、①の薄膜化技術については、アミン銅処理した仮道管細胞壁を、FIB(集束させたイオンビームを試料に当てて削り取る技法)を用いて無包埋のまま10nm厚に極薄膜化することが可能となった。また③の観察技術については、①の項で成功した薄膜切片を用い、分析電子顕微鏡の最新鋭の収差補正機能を駆使し、さらに木材細胞壁の観察・分析に適するような条件を編み出したことによって、銅の挙動をナノスケールで捉えることが可能となった。
|