アユ自然集団における保全単位のフレームワークを検討することにまず主眼を置き、基亜種は日本(広瀬川と琵琶湖)、朝鮮半島(南部のソムジン川と北部のワンピ川)、中国(北部の鴨緑江と南部の八都渓)、亜種リュウキュウアユは奄美大島(河内川と役勝川)のミトコンドリア(mt)DNA(3380塩基)の系統関係を調べた。その結果、リュウキュウアユと他のアユのmtDNAは相互に単系統となった。また、日本列島、朝鮮半島および中国のアユ集団のうち、八都渓のみが単系統を示し、特にユニークな集団であることが示された。mtDNAからみた亜種間の分岐年代を求めたところ、100万年となり、これまでにアロザイム分析で示されてきた分岐年代と良く整合した。また、基亜種内の集団の分岐年代は5.6~15.1万年、リュウキュウアユ2集団の分岐年代は7.3年となり、いずれもリスーウルム氷期の環境変動が集団の分化に大きな影響を及ぼしていると考えられた。ミトコンドリアDNAを用いて多様なアユ集団の分岐年代を提示した例は今回が初めてだが、調べた集団はそれぞれ重要な保全単位として取り扱う必要性があらためて示された。また、マイクロサテライトDNA60ローカスを用いて求められた集団の類縁関係はmtDNAのデータとよく一致し、蓋然性の高い結果が得られた。 それぞれ継代数や遺伝的背景の異なるアユ人工種苗についてもミトコンドリアDNAとマイクロサテライトDNA分析を行った結果、継代数と遺伝的多様性の変化には極めて高い負の相関が検出された。またどちらの分析方法においても聞き取りによる集団の遺伝的背景とよく一致した結果が得られた。 天然集団と人工種苗についてマイクロサテライトDNAローカスのゲノムスキャンを行ったところ、アウトライヤーは検出されず、すべて中立なマーカーと考えられた。今後、さらにマーカー数を増やして検討するのが望ましいと考えられた。
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